ヒュ―――ッ。というのは、W杯での代表チームの惨敗で、ブラジル国民の心に忍び込んだ〃寒気〃の音。それに共鳴してか、閉幕とともにサンパウロ市にも恒例の〃南極おろし〃が吹き込んできた。ブルブルブルッ。こんな季節にはやっぱり「ほっこり温まりた~い!」というわけで、ぐるめ隊はリベルダーデ区の「伴」に出動して座敷に上がり込み、鍋をつつくことに決定!
「こ、これは」と一同、顔を見合す。なにげなく出てきた「つきだし」が想定外にいける。普通の温泉卵とか、小松菜のおひたしなのに、まるっきり日本の味だ。
春菊、椎茸、白菜など野菜てんこ盛りの味噌仕立ての「カキの土手鍋」に、イカ、エビ、白身魚など海の幸が香る「寄せ鍋」があるとの噂を聞いていたのでさっそく注文、期待によだれが滴った。
火~土まで店主自らが毎日市場に行って食材を仕入れているというだけあり、海産物が新鮮だ。出てきた鍋を見て「これで2人前120~150レは安いかも」とうなる隊員も。「あ~っ、このカキ茹でるのもったいない!」「じゃあ生で食え~」。そんなやり取りをしながら、くつくつと煮えるのを待つ。
「寄せ鍋」のつゆも本格的なかつお出汁の味で、自家製ポン酢は飲み干したいほど。「カキ鍋」の土手に擦り付けてある味噌には、きっちりと焦げ目があり、なんとも香ばしい。
「この味噌は当地産か、日本産か」などと味噌談義に花を咲かせつつ、出汁を吸い込んだ野菜をかきこむ。最後に寄せ鍋は雑炊にし、カキ鍋にはうどんを投入。だし汁の最後の一滴まで味わう。
店主が様子伺いにやってきたので、味噌が国産かどうか尋ねると、「日伯をブレンドしています」とのこと。できるだけ当地の食材や調味料を使い、工夫をして「日本の味」に近づけるのが料理人の腕の見せ所だとか。日本でも郷土料理で有名な店で修行し、当地歴約35年という同店主ならではの両国での豊富な経験が活かされている。
みなが食べ終わった頃、店主はなにげなく、「メニューになくても材料さえあれば何でも作る」と告げた。先日も「宮崎の冷や汁」を注文した客もあったとか。「ナニ~ッ! どうしてそれを先に言わないのか?!」と思わず、懐の手裏剣に手が。
ああ、まるで安倍夜郎の漫画『深夜食堂』(同名TVドラマも)じゃないか。先に知っていれば「タコ型赤ウインナー」とか「バターライス」とか注文したのに…。ガックリ――。同名ドラマに登場するオダギリジョーを思い出し、「人生なめんなよ!」とグチりながら店を出た。
普通はない「懐かしい郷土料理」を前もって電話注文しておくのも、いいかも。
◆ BAN
【営業時間】開店時間は朝が午前11時半、夜が6時。閉店時間は火~金=午後2時半、10時半、土=午後3時半、10時半、日=午後3時半、9時半
【住所】Rua Thomáz Gonzaga, 18‐20, Liberdade
【電話】11・3341・7748/7749
【サイト】www.facebook.com/restauranteban