ニッケイ新聞 2012年11月10日付け
サンパウロ市だけで本当に日本食レストランが600店もあるのか——。高級日本食店から寿司バーまで、すっかりブラジル社会に馴染んだ感のある日本食店だが、その日本食ブームに拍車をかけたのは『ヴェージャ・サンパウロ』誌の「シュハスカリア500店、日本食店はサンパウロ市に600店」(03年7月16日)との記事だった。ブラジルを代表する料理より多いとの衝撃の特集であり、これ以来「600店」という数字が日伯のメディアを一人歩きしている。ところが本紙編集部が最近入手したジェトロ資料にはまったく別の数字が書かれており、ヴェージャ誌発表の調査はかなり誇張したものだった可能性があるようだ。
ヴェージャ発表の数字は、ホテル・レストラン・バール組合(Sindicato de Hoteis, Restaurantes, Bares e Similares)が調査発表したデータに基いている。ところが、いくら記事を読んでも「何が日本食レストランか」という定義はない。
当地で最も権威ある週刊誌と言われる同誌が「Restaurante Japones」と書けば、誰もが思い描くのは日本料理を中心としたメニューの店だろう。実態がよく分からないまま、この数字だけが通説として様々なメディアで引用されている。
そんな現状に対し、「本当にそんなに日本食レストランがあるのか」との疑問が、以前から本紙には寄せられていた。
そこでジェトロ(日本貿易振興機構)が作成した「ブラジルにおける日本食品市場調査」報告書(2010年)を入手したところ、「日本食店数はブラジルに少なくとも792軒、そのうち341軒がサンパウロ市にある」と書かれていた。これでも多いかもしれない数字だが、600店よりははるかに現実的だ。
ジェトロの森下龍樹さんに尋ねたところ、この調査は当地のノーヴァ・インベステ社に委託されて実施された。伝統的な日本食から焼きそば、現地化した手巻寿司まで幅広く〃日本食〃と見なし、『2009年日本料理ガイド』(JBC出版)やヴェージャ、ネットや電話帳を使って調べたものだという。
同社は、ヴェージャ誌の報道について「寿司や刺身を置いてあるシュハスカリアから、焼きそばをおいている中華料理店まで、全て含めた数字だと聞いたことがある。当該数字が正確なのかは不明」と回答している。
当地の日本食事情に詳しい「道クルツラル」の高橋ジョー代表も、ヴェージャ誌の数字に関して「日本食を置いているポルキロやシュハスカリア、デリバリー専門店も含めた数字では」と同様の見解を示した。
つまり、中華料理店から巻き寿司を前菜コーナーに置いたシュラスカリア、ポルキロまでを「Restaurante Japones」に数えた挙句が〃600店〃であった可能性が高いようだ。
健康志向の高まりや日本食の現地化も後押しし、世界的に日本食店が増えているのは事実だ。しかし日本食ブームを強調するあまり、根拠の曖昧な数字が一人歩きしている状況はいかがなものか。