ニッケイ新聞 2012年12月8日付け
アルゼンチン国内の報道機関の活動を大幅に規制するメディア法の完全適用が、その前夜の6日に、合憲性が確認されるまで延期されたと7日付伯字紙が報じた。最高裁が政府の圧力に逆らい、クリスチーナ政権の敵とされるクラリン社の言い分を認めた事で、三権分立、言論の自由など、民主主義の根本に絡む議論も再燃しそうだ。
2009年に成立したメディア法(視聴覚通信サービス規正法)は7日から完全施行の予定だったが、6日になって、違憲性が問われている2項目は合憲性確認まで適用延期の判断が下った。
同法では、各報道機関に対する許可数を24に限定。一般のテレビ局を有する会社はケーブルテレビの運営不可、一つの会社がカバーできるのは人口の35%までなどの規定があり、これに添わない会社は縮小か売却による適合計画を提出。従わなければ資産を没収して競売など、かなり強引な報道規制だ。反体制派大手のクラリン社はこれを違憲として訴訟を起こし、施行差し止めの暫定令を勝ち取ったが、それが7日で切れるため、再延長を願い出ていた。
政府側はクラリン社の再延長請求を棄却するよう最高裁判事らに圧力をかけていたが、市民商工法廷が、問題とされている項目の合憲性確認までの差し止め延長を決めたのが、暫定令の効力の切れる前日だった。
クリスチーナ・キルチネル大統領は、暫定令が切れる12月7日がクラリン社弱体化の日と期待し、9日に今年成就した政策や事業を祝うミュージック・フェスティバルも予定していた。ところが、勝利の日となる7日を前に思わぬ敗北。大統領や周辺は、裁判所は敵に加担し「恥ずべき判決を下した」「国益を無視して民主主義を破壊する逆賊」と非難した。
だが、政府から圧力を受けていると漏らしていた司法界が、ここ数カ月の緊張の中で三権分立の原則を貫き、民主主義や言論の自由、国民の知る権利を守るための法の番人としての姿勢を見せた事は、国内外からも評価されている。
同法の完全適用で縮小や売却を余儀なくされるのは21の企業グループで、親族に権利を分割して生き残ろうとしても、新会社が認可を得るのは困難と見られている。
新聞、テレビ、ラジオなどの全媒体を有し、反体制派とみなされているクラリン社には新聞用紙の供給を停めるなど、あからさまなクラリン潰しが続いているが、亜国の状況はベネズエラ政府のRCTV潰しより酷いと見る汎米報道協会(SIP)は、6〜7日に関係者を派遣し、実態検分などを行う。ブラジルでも、ブラジル・ラジオ・テレビ放送協会と全国雑誌発行者協会、全国新聞協会が6日、ここ数年の亜国政府によるクラリン潰しはラ米での報道規制の嘆かわしい実例とし、民主主義国家の政府が報道機関の活動を制限し、圧力をかけている事を批判する声明を連名で出した。