「こんなにソルチ(運)がある日が来るとは思いもしなかった。生きていて良かった!」。サンパウロ市在住の加藤イツ子さん(86、静岡)は電話口で声を弾ませた。朝は「文協に予約してないけど聞けるだろうか」と不安な気持ちで家を出たが、無事に安倍首相の講演を聞け、最後に記念撮影まであった▼撮影の席では「左に座った人を見たら首相。右に座った人は、後から気付いたけど、あの有名なバナナ王山田勇次さんの奥さん(由美子さん)だった」と感激を振り返る。「首相と握手までした。いつもNHKで観ていたけど本物はもっと若かったわ」▼イツ子さんは撮影を待つ列で由美子さんと話し、「主人は招待されていたけど、私の方は分からなかった。でも入場できて良かったわ」と胸をなでおろしていたとか。イツ子さんは自宅についてから由美子さんの名刺を見てビックリ。「その日の晩はソルチが頭に残って寝付けなかったわ。生きていたら良いことがある」としみじみ▼とはいえ、日系人の中には「政治家の来年は分からないが、皇室は不変」と敢えて首相に関心を示さない人も。それもまた見識だ▼イツ子さんは「日本の若い人はすぐ自殺する。新聞を読んでいるとそんな記事がよく出てきて気が滅入る。生きていれば良いこともあるから簡単に自殺しないでと書いといて」と注文した。その日の本紙1面は発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の笹井芳樹副センター長自殺の記事だった▼「自殺したくなったらブラジルへ来て移民の話を聞こう!」キャンペーンはどうか。開拓初期の体験談を聞けば、日本の若者も「自分の悩みなんて」と考え直す?(深)