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助け求めて1人で下山=フィッツロイ山の登山事故=悪天候の中救出活動は断念

ニッケイ新聞 2011年1月8日付け

 「断崖から落下し意識不明に陥った彼を助けるためには、1人で下山するしかなかった」—。女性登山家キカ・ブラドフォルドさん(34)が、アルゼンチン南部パタゴニアのフィッツロイ山からほとんど寝ずに吹雪の中で下山を続け、ふもとのエウ・シャウテン市まで到着したのは4日午後だった。ケガで動けぬ友人の救助を求めたものの、悪天候のため、断崖絶壁の同山頂上付近での救助活動は困難と断念されている。7日付伯字紙のキカさんの証言が、事故の詳細を伝えた。
 標高3405メートルのフィッツロイ山で事故が起こったのは、3日午前10時頃。2人で同山に挑んだキカさんとリオ州登山家連合会会長のベルナルド・コラレスさん(46)は頂上付近まで辿り着いたものの、悪天候のため頂上に上ることを断念して下山を始めた直後だった。
 キカさんが最初に命綱を使って断崖を足場まで下った後、不意に綱を保持していたくさびが外れ、後ろに続いていたベルナルドさんは20メートル(地上8階)の高さから落下。岩盤に強く身体を打ち付けたベルナルドさんは骨盤を損傷、多量の体内出血で意識不明に陥った。
 ベルナルドさんは、キカさんが声をかける度に数回、意識を取り戻しては意識を失う状態を繰返した。4時間その場に付き添ったキカさんは、意識がもうろうとする中でベルナルドさんが発した下山するようにとの助言から、救出を求めるため1人で山を下りることを決断したという。
 しかし、キカさんの願いも空しく、医者や登山専門家は悪天候の中、道中1800メートルの垂直斜面が立ちはだかる同山頂上付近での救助活動は困難と判断、救助隊員の出動は断念された。
 風速150キロメートル/時という強風下でのヘリコプター利用は危険を伴うほか、0度から氷点下5度(体感温度氷点下15度)という厳しい環境と事故当時の報告からすれば、ベルナルドさんが事故翌日まで生存していた可能性は極めて低いという。救助隊員が足で登っても、担架でベルナルドさんを運ぶには5日以上かかり、事故発生から病院到着まで6日以上経過することになる。
 ベルナルドさんの家族や登山家の友人たちは、生存の見込みは少ないと絶望的だが、「彼女は最善を尽くした」とキカさんの勇気ある行動を認めている。