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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年1月27日付け

 サンパウロ市の地図を見て以来ずっと不思議に思っていることがある。なぜメトロは十字架の形から始まったか、だ。しかもサンパウロ市の始点たるセー大聖堂の真下を基軸に、東西南北にキリスト教にちなんだ駅名やインディオの言葉からとった駅名がずらりと並ぶ。サンパウロ市は457年前にイエズス会修道士のインディオ布教ミサから始まったカトリック宗教都市であり、その影響が今も色濃く残っている▼政治の首都はブラジリア、文化の都はリオ、経済の都がサンパウロ市といわれるが、実は国教カトリックの伝道開始はサンパウロ州海岸部とサンパウロ市であり、ドン・オジロ枢機卿はセー大聖堂にいる▼サンパウロ市はブラジルGDPの12%をたたき出す〃機関車〃だ。使徒パウロは異邦人への伝道が主な功績として知られるが、サンパウロ州は最も外国移民が多く入り、それが原動力となって発展した。異邦人と縁のある形での調和と発展はこの都市の運命なのだ▼メトロに乗っている時、キリスト教徒が十字を切っている指先にいるような気がすることがある。創立時からのメトロ職員や日伯司牧協会にも尋ねた。メトロは宗教都市としての基本設計から十字架の形になったのかと。ところが誰もそんな話は聞いたことがないという▼一方、渡伯以前に住んでいた東京では、皇居を中心に地下鉄は山手線という環状線から放射線状に伸びる形だったので、あれが当たり前だと思っていた。思えば、まるで旧海軍の旭日旗とそっくりな形だ。文化や歴史を反映して都市は形成されるもののようだ▼コラム子は仏教徒だが、平和を祈る気持ちは宗派を超えると思っている。この多民族都市の平安を祈ってメトロは今日も十字を切り続ける。(深)