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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年1月28日付け

 美しい装丁を誇る俳誌『蜂鳥』(富重久子発行人)がこの2月に創刊25周年(300号)を迎えるに当り、隔月刊になるとの連絡を受けた。今までたゆまず毎月作り続けたその実績はコロニア史に残るものだ。しかし誌友の高齢化・減少により、ついに決断したと聞き、深い感慨を憶えた。歳月の流れは無慈悲なまでに万人へ平等に訪れる▼俳誌刊行は手間や費用がかかるものであり、夫である富重かずま主宰が5年前に亡くなって以来、久子さんは持病の腰痛に悩まされながら刊行を続け、はや82歳となった。「一時は休刊や廃刊まで考えた」と久子さん▼12月号の蜂鳥集評には「夏めくやきらめく磯の忘れ汐」(広田ユキ)が巻頭で紹介されている。「忘れ汐」とは、引き潮時に浜辺の岩などに取り残された海水溜りのことで、小魚がいたりする。久子さんは「この句のように初夏の輝く太陽の光を受けてきらきらしている様子はまことに美しく、立派な写生俳句である」と賛評する。コラム子はどことなく当地のシュラスコ風景を思い浮かべる「にぎりめし焼けて香ばし夏料理」(須貝美代香)がお気に入りだ▼〃コロニア俳句の祖〃佐藤念腹(1897—1979)は故富重かずまさんの他に、星野瞳さん、佐藤牛童子さん(弟)ら多くの高弟を残した。俳壇は個人的な文化事業かもしれないが、コロニアの知的財産、日本にとっても在外文化資産でもある。本来は「文化協会」と名のつく某大組織が手伝ってもいいはずだが、一向にそんな話は聞かない▼なんとか若手が育たないものか。せめて日本語教育界からの俳句への取り組みに期待したい。(深)