2日午前にサンパウロ市内ホテルで行われた安倍首相の記者会見を取材していて思ったが、話す内容の大半が日本国内向けだった。ブラジルまで来て記者会見をしているのに、一般ブラジル人向けの言葉が少なすぎるように感じた▼発言の中で日系人のことを褒め、強調してくれるのは本当に有難いが、「ブラジル人全体」の心を掴む言葉や行動も次回には期待したい。首相が来伯するたびにブラジル人全体が日本に対する認識を新たにするなら、日系子孫はもっと胸を張れる▼残念だったのは通訳だ。羽藤ジョルジサンパウロ州議が「お願いがある。日本のノウハウや先端技術を学んで帰伯できるような職業や役職に、デカセギが就けるようにしてほしい」と要請したのに、「~をデカセギが学んで帰国している」と誤訳していた▼首相がとっさに「ブラジルから東日本大震災義援金が6億円送られた」と言った時も「600ミル」(60万円)と通訳し、後から「ミリオン」と言い直すなど、首相レベルのそれとしては見苦しい場面があった。臨機応変に首相の意図を汲むのも通訳の仕事のはずだ▼首相の心のこもった言葉が、通訳によって杓子定規な、感情表現の乏しい、語調の平板なポ語にされてしまい、「想い」がすっかり抜け落ちていた。会議の通訳なら正確さが命だろうが、〃貴重な出会い〃を演出する場面では微妙なニュアンスが印象を大きく左右する▼せっかくの機会だから一流の通訳を入れ、首相の気持ちそのままのポ語で伝えてほしかった。それができる通訳の存在は両国交流の要だ。実際そのレベルの人材はごく少ない。これを機に、そんな通訳人材を育成する制度を始めるのも必要だと痛感した。(深)