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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年2月4日付け

 マリリア市に住む日高徳一さん(7面参照)の所へ新聞記者が取材に行くようになったのは、ほんの十年ほど前からだという。思えば弊紙自身が認識派のパウリスタ新聞、日伯毎日新聞の流れを汲むものであり、10数年前まで勝ち組関係者の記事を書くことはご法度の雰囲気が残っていた▼パ紙創刊時の先輩記者から「ガベッタにピストルを隠して記事を書いていた」との話を聞いたことがあるが、日高氏は「新聞社を狙うなんて考えたこともなかったよ」と笑い飛ばした。しかし戦前の日伯新聞編集長・野村忠三郎が真っ先に殺されたから、先輩記者の心配にも納得する▼当事者の多くが鬼籍に入った今だからこそ、公にされ始めたと言ってもいい。終戦後のコロニアは8割以上が勝ち組だった。彼等の証言が入っていないコロニア史は片手落ちに違いない▼日高さんの話を聞きながら〃コロニアの岡田以蔵〃だと感じた。あの幕末の土佐勤王党の「人斬り以蔵」だ。尊皇攘夷派を弾圧した安政の大獄に関与した佐幕派を、京都で天誅と称して次々に殺害したあの人物だ。本人にその感想を伝えると「そんなもんじゃない」と言下に否定した▼日本史の中で幕末の尊皇攘夷運動はしっかり研究され、歴史上の登場人物として認識されている。明治政府からの視点のみで日本の近代史は描かれていない。それならコロニアにおいても勝ち負け抗争は両側から描かれるべきだ▼「しょせん人殺し」との声もあるかもしないが、よくある金品目当てとか恋愛沙汰の殺人とはまったく意味が違う。コロニア史の中に新たに組み込まれるべき、豊かな逸話の一部だと痛感する。(深)