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サンパウロ市=サンバ女王コンテスト=田辺さん見事上位に入賞=逆境跳ね返し観客総立ち=伯字紙「会場の心掴んだ」

ニッケイ新聞 2011年2月9日付け

 サンパウロ市アニェンビー国際会議場で3日深夜に行われたパウリスタ・サンバチーム連合(UESP、カシツ・リカルド・カンポス会長)のサンバ女王コンクールで、田辺森下佳苗さん(41、大阪)が見事入賞を果たし、その活躍に会場からこの日一番の拍手が贈られた。突如湧き上がった「ジャポネーザ! ジャポネーザ!」の連呼の渦に会場は飲み込まれ、記者も鳥肌が立ち「もうここに敵味方は無い」と痛感した—。日本人の中でも小柄な彼女の体格は明らかに不利であり、それに加えて言葉の問題など逆境に立ち向かった日本人女性が、一番の大舞台で会場全体を味方につけた。

 サンパウロ市のサンバチームはスペシャルチームを先頭に7つのカテゴリーに分かれて競っており、上位2つがサンボードロモ中心に豪華パレードを繰り広げる。下位の5つは市街の大通りを仕切って特設会場を作って行われ、より商業的色彩が薄く、伝統的なサンバ精神が残っている。この後者を管轄するのが今回主催したUESP。出場者18人中唯一の日本人である田辺さんは「X—9パウリスターナ」(スペシャルチーム)の代表として女王部門(Rainha de samba)に挑戦した。
 真面目一方だと思われている日本人や日系人は、黒人コミュニティの影響が濃くボヘミアン的雰囲気の強いサンバ界では少数派の存在。サンバ女王コンクールで優勝したり、大チームを代表した存在になることは極めて稀だ。上部チームを管轄するリーガより、UESPは日系人が少ないため、田辺さんの苦戦は当初から予想されていた。
 女王部門は各チーム代表者が順番に登壇して自己紹介、ドレス、水着審査と続く。ひいきの代表者が登場すると会場各所の応援団から大歓声が上がる。声援、口笛、楽器や揃いのTシャツなどを用意する団体もあり、応援にも力が入る。
 そんなバラバラの歓声が一つになったのは、田辺さんの1分間スピーチだった。「このコンテストは〃サンバには国境がない〃ことを示す好機(チャンス)。私のルーツである日本人の血と、ブラジルのエッセンス(サンバ)を混ぜたら、これぞブラジルという情熱が生まれるはず」とポルトガル語で訴えると、この日一番の大歓声が会場中から沸き起こった。他のチームの応援団も立ち上がり喝采が贈られた。
 「賭けだった」というスピーチは「寝ても覚めてもお風呂の中でも練習した」という田辺さん。会場で最後まで行方を見守った夫の田辺広志さん(二世)も練習に付き合った。田辺さんは「盛り上がったのは分かったけど他の出場者の様子を見ていなかった・・・」と不安一杯だったという。
 最後は踊りの審査で、チームカラーの羽を背に登場し、小柄な体を広げてステップを踏んで懸命に踊った。結果発表の時、セグンダ・プリンセーザ(3位)プリメイロ・プリンセーザ(2位)と順に発表が行われ、ハイーニャ(1位)発表の時、会場全体から突如「ジャポネーザ! ジャポネーザ!」の大歓声が沸き起こった。会場票で決まるのなら、間違いなく田辺さんという雰囲気になった。
 結果は4位。惜しくも3位とは1ポイント差だった。田辺さんは「今日はこれまでで一番の大舞台。残念だけど、ここまでできたことは皆の力のおかげ」と、悔しさの中に清々しさを感じさせた。
 その活躍はジアリオ・デ・サンパウロ紙5日付けでも1頁を使って取り上げられ、写真の扱いは優勝者らより大きく、記事の見出しには「日本人女性が会場を埋め尽くした応援団全ての心を掴んだ」との言葉が躍った。