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前山隆が自伝的著書刊行=伯米で研究した16年描く

ニッケイ新聞 2011年3月15日付け

 日・伯・米という異質な文化と歴史を持つ3国で長年実地研究を重ねて独自の比較社会論を磨いてきた前山隆・元静岡大学教授(77、北海道)が、自らの海外経験を中心に記した自伝的著書『文学の心で人類学を生きるー南米アメリカ生活から帰国まで十六年』(お茶の水書房、2800円、300頁余)が先ごろ出版された。
 個人雑誌『国境地帯』の主宰者・菅沼東洋司氏の要請により、6回に渡って同誌に発表された草稿に加筆訂正したもの。「重症の文学青年」が伯米などで学究生活を送った後に信州大学に招かれるまでの16年半の出来事がまとめられている。
 そこには、中尾熊喜、渡辺マルガリーダ、三浦鑿などの移民の生涯を文化人類学的な視点で読み解いた3部作を世に問うた前山氏ならではの、次は自らの生涯すらもまな板に載せてみるかとの学者としての覚悟が感じられる。
 研究現場における学者同志のやり取り自体が考察の対象になっているのに加え、「黒人カルト集団」「フリーメイソン」「中国系ブラジル人」などあまりに多岐にわたる研究対象が次々に現れ、その旺盛な好奇心に驚かされる。
 「人生これフィールドワーク」という生き様が頁の端々から伺われ、単なる自伝というにはあまりに深くブラジル社会を透徹した視線でえぐっており、格好の当国や日系社会の紹介本になっているといえそうだ。