ニッケイ新聞 2011年3月31日付け
援協の土肥セルジオ隆三医師(二世、1932〜2005)の遺稿を元に、二宮正人弁護士(USP法学部教授)が共著者となり3年がかりで全面的に情報を増補更新させたポ日英医学用語辞典『Dicionario Trilingue de Termos Medicos』(100レアル)がこの度発刊され、日系各書店(太陽堂、竹内書店、カーザ小野、高野書店)で発売中だ。
35年も前に肝臓移植を成し遂げた高名な医師にして、全伯講道館柔道有段者会の会長でもあった土肥氏は、医学専門用語に戸惑う一世のために、医学英和大辞典(1972年版)を元にしてポ語を付け加え3カ国語の医学用語集の原稿(1万8千項目、618頁)を著し、本として出版することを考えた。以前から薄い日ポ医学用語集はあったが、本格的かつ英語も入った辞典はこれが初めてだった。
土肥医師は原稿をもって岡野脩平同有段者会会長(当時)、田尻慶一CIATE専務理事(当時)らと共に05年6月に二宮氏を訪ねて出版計画を相談した。土肥医師の原稿をそのまま使い、二宮氏にはブラジル文化省の免税処置を取り付ける件だけを依頼にきた。
しかし、その直後の7月に土肥医師が急逝し、出版計画が宙に浮いた。土肥マリリア未亡人が涙ながらに亡夫の宿願実現を夢見ていると懇請したところ、二宮氏は意を決し、内容の増補更新も引き受けた。
以来3年余り、5人のスタッフと共に週末ごとに編纂会議を開いて内容を検討、2万項目にまで増やし、さらに在日ブラジル人が使いやすいようにローマ字用語集まで付け加え、11日に記者会見を二宮正人法律事務所で、15日に刊行記念式典を援協福祉センターで開催した。
同式典では最初に東日本大震災の犠牲者と土肥医師らに黙祷が捧げられ、続いて二宮氏は「スタッフが私心を忘れて完成に献身してくれたおかげで完成した」と関係者に感謝し、当日販売された100冊以上の辞典の利益は、大震災の義捐金として土肥医師の名前で援協を通して寄付されることを発表。「土肥医師が生きていたら、きっとそうしていただろう」と二宮氏は締め括った。
森口イナシオ援協会長は祝辞の中で、土肥医師の名は87年から理事会名簿に刻まれており、「苦難の最中にある人を助けようとの思いは、援協も土肥医師と同じ」と語った。また本紙取材に対し、土肥氏が30年以上も会長職を務めた同有段者会を引き継いだ岡野現名誉会長も、「土肥先生は本当に尊敬される人物だった。二宮先生が遺作を完成させてくれたことに心の底から感謝している」とのべた。
さらにCIATE現専務理事の浅野嘉之氏も「ブラジルだけで使うのはもったいない。ぜひ在日ブラジル人および医療関係者に使っていただきたい有益な本です」と語った。