ニッケイ新聞 2011年4月7日付け
米州機構(OAS)が5日、パラー州アウタミラのシングー川に建設予定のベロ・モンテ水力発電所に関わる許可の審査や工事の即時中止を要請した。同日付サイトや6日付エスタード紙によれば、ブラジル政府に与えられた弁明期間は15日で、この間に先住民各部族との合意を得ないまま審査や工事続行となれば、国際裁判に持ち込まれる可能性さえあるようだ。
2010年4月の入札後も、参加企業の脱退や工事に欠かせぬ許可が出揃わないなど、難航続きのベロ・モンテ建設工事だが、米州機構からも工事差し止め要請が出た事は、ブラジル政府関係者を大いに戸惑わせた。
1951年発足のOASは、米国やカナダ、中南米の計35カ国が参加し、日本など59カ国と欧州同盟が常任オブザーバー国を務める汎米国際機関で、域内の民主化確立や維持などを中心に取り組んでいる。
活動原則として、主権平等や内政不干渉を挙げるOASが、2005年の連邦議会が承認し、経済活性化計画の一つでもあるベロ・モンテ発電所建設問題に口を出してきたのは、2010年11月に発電所周辺の先住民や地域住民が、納得できるような説明を受けておらず、自分達の人権や生活を破壊する形で開発が行われていると訴えた事がきっかけだ。
米州人権委員会が先住民らの訴えを受け入れ、人権侵害や環境への影響の更なる検討などを求める意味で、許可審査や工事の即時中止要請を決めたのは今月1日。ブラジル宛ての文書が届いたのは5日の事だった。
この要請に戸惑いの色を隠せないのがブラジル政府や国家電力庁で、国家電力庁は、先住民とは80年代から話合いを重ねており、OASの行為は内政干渉と強く反発。外務省は、OASの行為は性急で正当化し難いとしながらも、国会で承認された事業で、環境への影響や先住民らの人権についても先住民保護財団や国立再生可能天然資源・環境院などと十分情報交換しつつ進めていると説明する文書を送付した。
一方、この事業は先住民や地域住民の人権や生活を破壊し、環境にも修復不能な影響を与えると警告し続けてきた検察庁や環境団体などは、OASの行為は当然と判断。ブラジル政府が同機構の要請を無視すれば、ブラジルのイメージは大きく損なわれる上、国際裁判になれば人権委員会の言い分が通る事が多いと、警鐘を鳴らす専門家もいる。
計画上の発電量は1万1千メガワット(MW)だが、実際の発電量は平均4千MW、下手をすれば2千MWといわれる同発電所建設は、500平方キロが水没し、環境や生態系の劇的変化が不可避の上、マラリヤなどの病気蔓延の懸念もある。アマゾンの所有権問題やエネルギー確保にも繋がる国際社会の声をどう扱うか、ブラジル政府には思案のしどころだ。