ニッケイ新聞 2011年5月10日付け
全国の大学に先駆け、定員の45%を黒人や公立校卒業生向け特別枠に振り分けたリオ州立大学(Uerj)医学部で初の特別枠生達が卒業し、各々の道を歩み始めていると8日付エスタード紙が報じた。人種や出身校による特別枠の是非を問う声も再燃し始めている中、偏見や社会格差を超えた卒業生達のあり方は、格差のないブラジルへの今後の歩みを占うものになりそうだ。
「試験で7割以下の生徒や特別枠(コッタ)で入った学生なぞ相手にせん!」—2005年入学の学生相手にある教授が発した言葉は、特別枠生と非特別枠生の双方を沈黙させた。
定員94人中43人が特別枠で入学した最初の年、従来は白人中心のエリート集団だったUerj医学部には、同枠導入で教育レベルが落ちるなどの懸念も渦巻いた。
Uerjでは、2004年入試から、定員の20%を黒人、他の20%を公立校出身者、5%を障害者や先住民、殉職した警官の遺児らに振り分け、残り55%を私立校生に争わせているため、特別枠の競争率は5・33倍、非特別枠は55・80倍というアンバランスも生じた。
だが、従来は白人が溢れていた教室に黒人学生の数が増え、授業中の質問も頻繁になるなどの変化を除けば、学力低下その他の否定的変化は起きてないと評価されているように、特別枠生の頑張りは私立高校卒のエリート達とのハンディを凌駕してきた。
先の発言をした教授は特別枠導入を快く思っていなかったというが、問題の試験は習ってない分野も含んだもので、7割以上の得点は非特別枠の生徒一人だけ、平均点は3・5だから、枠内外の生徒が何も言えなかったのも無理はない。が、先の発言への最良の返事は勉強する事と一念発起した学生達は、クラスの評価を上げるべく、一心に勉学に打ち込んだ。
もちろん、通学費や書籍購入費を賄うためのバイトで勉学の時間を削ったため、成績が振るわないなどの悩みを通った学生もいたが、6年後の2010年12月には学年の9割が無事卒業。
入学時のハンディを克服した特別枠生から卒業生総代などが選ばれるなど、初の試みの中で育ち学窓を巣立った卒業生からは、当面の収入の必要や専門分野を見極めたいなどの理由で、研修を先送りして現場で働く医師も出ているが、特別枠利用の有無に関係なく、それぞれの夢を追い、医療への思いを育てようとする姿には、特別枠の利点こそあれ、批判の声は出ていない。
特別枠の内容や範囲、いつまで継続すべきなどは、国会や各大学の入試委員会などでの議論の余地を残しているが、偏見や社会格差を超えて現場に赴いた医師達が、更なる偏見や格差是正の鍵となる事を期待する声も出てきている。