ニッケイ新聞 2011年5月14日付け
ブラジル政府が、増加傾向にある自動車の完成品輸入に障壁を設ける事を決め、10日から実施に移したと13日伯字紙が報じた。従来は税関審査を免除されていた車種にも最大60日の期限をきった書類審査を義務付けた背景には、保護貿易主義の色合いが濃いアルゼンチンへの牽制の意味合いがあるようだ。
フェルナンド・ピメンテウ商工開発相が12日に行った説明によると、今回の障壁設置は、自動車の完成品輸入が輸出を上回る傾向が今年はとみに強まったためで、今年三半期(1〜4月)の赤字は昨年同期の7億9千万ドルを大きく上回る19億ドルに達している。
同相の発言は今回の処置がアルゼンチンの輸入障壁に対する報復処置かとの問いに答えたもので、ブラジルには隣国に報復するつもりは毛頭なく、ア国以外の国からの輸入車に対しても同様の処置をとるという。
しかし、実際には、他の国々からの輸入車に対する書類審査は10〜20日で終えても、ア国からの輸入車に関する書類審査は、世界貿易機関(WTO)の定める最大60日という枠ギリギリで行うよう、指示が出ているとされ、輸入車の約半数を占める隣国が最大の標的のようだ。
メルコスル内で生産活動を行う自動車メーカーの中には、経済域の利点を活かすため、ブラジルとア国の双方に工場を設け、各々の国で生産した完成品を需要に応じて動かしている会社もある。
例えば、今回の処置で足止めされた車の多くを占めるとされたトヨタの場合、ハイラックスなどをア国で生産。フィアットはシエナ、GMはAgile、フォードはFocusなどをア国で生産し、ブラジルに輸入する形をとっている。
多国籍企業の戦略もあり、三半期の完成品輸入は昨年同期比28・5%増の42万5949台だが、輸出は0・7%減少し、赤字が益々増大している。輸入車の大半はア国産だが、韓国車の輸入も3億9900万ドル、161%増で2630万ドルを計上した中国車も脅威となりうる。
一方、今回の処置はア国への報復との見方が広がっているのは、同国が申告を義務付ける輸入品目が400から600に増え、国境沿いの税関にはブラジルからの製品積載のトラックの中には1カ月以上足止めされている例もあるためだ。
特に苦情が挙がっているのは、冷蔵庫などの白物家電やチョコレートなどの加工食品、農業用の機械類や靴などで、ア国側税関に滞っているブラジル製品は、15社分で52億ドルに上っている。
ブラジル企業の中には貿易停滞で休業や従業員解雇に至った会社も出ているが、ア国側からは話合いの機運も改善要求に対応する気配もなく、両国間の緊張が高まっていた。