ブラジル東京銀行元頭取、デロイト・トウシュ・トーマツ監査法人最高顧問を歴任した鈴木孝憲氏は昨年11月、日本経済新聞出版社から『2020年のブラジル経済』を出版し、その反響は大きかった。メディアでの「ブラジル」の露出も増え、同氏が訴えてきたブラジルの市場価値にようやく日本企業が目を向けはじめている中、「過去の歴史を繰り返すな」と日本企業へ提言する。
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「15年前から私は日本企業に訴えつづけてきた。ブラジルは良くなるに決まっていると」—
鈴木氏は1996年から毎年訪日し、企業にブラジル経済の発展について講演を行っている。
94年7月の「レアル・プラン」実施後、30年以上続いたハイパーインフレが収まるのを待っていた欧米勢が95、6年に大挙して押し寄せた頃だが、日本企業は91年のバブル崩壊後でブラジルどころではなかった。
それ以前にもオイルショック後の中南米全体の対外債務未処理問題に対し大蔵省(現・財務省)は銀行融資を差し止めさせており、そこでも日本は出遅れを見せたと指摘する。
「90年代の欧米企業は対伯投資額が極めて大きくなってきた。21世紀に向け大きく発展するブラジルに、彼らは明らかにグループの収益の大きな柱を築きあげる動きをしていた」と鈴木氏。また、同時期にソニー、パナソニックに20年遅れて進出した韓国のLG、サムスンが巨額投資を続け、05年頃には両社を抜き売上10億ドルを超える規模に成長している。
レシーフェのスアッペ港湾工業地帯にアトランチコ・スルというブラジル最大の造船所ができ、国内外からタンカー等の注文をうけているが、そこには韓国の現代が資本参加している。
鈴木氏は「目を光らせればそういったチャンスはまだある」と注目を喚起。さらに「日本は少しずつしか投資しない。緊急時にも金がないから手が打てない。今回はそんな歴史を繰り返さないように願っている。金をかけ事前調査を依頼し、その上で覚悟を決めて、今までと違った大きい規模で進出することをお勧めする。今回もこれまでの様にやっていると締め出し食うよ」と釘を刺した。
ここ3年で日本勢のブラジル熱の盛り上がりを感じるという鈴木氏。講演の出席数も増え、反応も変わり、質問も多くなったという。
また『2020年の—』の出版後、「まさか昨年7・8%の成長率を見せるなんて思ってもみなかったのだろう。一番大きかったのは日本のメディアが動き始めたこと」という。
2月には大手経済専門誌の東洋経済が60ページに亘る特集を出し、産経新聞でも大きな連載企画でブラジル経済の発展を報道。日本側でのブラジルの露出は確実に増えている。
ブラジル経済の今後については、産業政策のビジョンの未確立、レアル高を放置してきた問題はあるが、「経済、政治は安定し内需主導でブラジルはこれから更なる成長の条件の中にいる。インフラ整備、構造改革が進んでいく」と強調。
ジウマ大統領は小分けにした労働法の改革を図り、第一番目には企業の社会保障料を大幅に軽減する考えという。そういったビジネス環境の改善傾向もみられる。
最後に鈴木氏は、「ブラジルが世界で唯一日本と日本人を敬愛、信頼してくれる国。これは移民100年の苦労のおかげ。中国、韓国と比べても信用度合いが全然違う。ビジネスにもそれが大いに役に立つことを企業はしっかり認識しないといけない」と日本企業の優位性を力を込めて語った。
今、着実に日本企業の目がブラジルに向き始めている。欧米、アジア企業との競争の中、日本企業はその特性、優位性を生かしていかにブラジルとの関係を深めていくか。「第3の波」はまだ始まったばかりだ。(おわり、宇野秀郎記者)
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