ニッケイ新聞 2011年5月21日付け
「様々な融合を作品に込めたい」——。パラナ州出身で現在パリに在住するアーティスト、上西エリカさん(32、三世)が今月29日から、サンパウロ市内のギャラリー『FUNARTE』(Alameda Nothman, 1058, Santa Cecilia)で個展『庭(Jardim)』を開く。留学先の日本でアイデンティティに悩んだことを糧に〃融合〃を作品のテーマに置き、旺盛な制作活動を続ける彼女に話を聞いた。
パラナ州クリチーバ市で生まれた。幼い頃から建築に興味があり、製図を学ぼうと入学したパラナ州芸術大学でアートの楽しさに出会い、美術の基礎を学ぶ。
大学卒業後、22歳で文部科学省留学生として渡日。日本大学大学院芸術学研究科に籍を置いた。旅行先の京都で伝統的な日本の美に触れたことから、日系人であることを意識し始めたという。
「祖父母の祖国であり空想の対象だった日本、生まれ育ったブラジル。アイデンティティについてずっと悩み続けた」。その壁を打ち破ったのは、ポルトガル出身の詩人、フェルナンド・ペッソアの詩だった。
「自分の道、相手の道」——。
江戸時代の地図のまわりにペッソアの詩をびっしりと敷き詰めた作品を作るなかで、「どちらかにルーツを探すのではなく、融合した日系人であることが自分らしさと思うようになった」と語る。
以来、〃融合〃という言葉はエリカさんの芸術活動に大きな影響を与えるようになる。芸術と観客との関係性も変換させる試みも始めた。
去年8月に開催された『愛知トリエンナーレ』の出品作品は、彼女が真っ白なパズルに輪郭を描き、来場した子供達がその中のピースに絵を描くというもの。
今回の個展で披露する作品は『庭』。石にプラスチック、苔にビニールという自然と人工の融合を試み、枯山水を模した庭園が広がるインスタレーション(空間芸術)。来場者がペンで自由に絵を描き込める参加型の作品だ。
「日本庭園は仕切りの外から静かに見るもの。一方、賑やかな幼稚園も「Jardim da infancia」(子供の庭)。その隔たりを組み合わせたいと思った」。芸術をもっと身近に感じてほしいという思いも込める。
「未完成である私の作品を、ペンを持った参加者たちがどう完成させるか、私にも分からない。でもそれが芸術の楽しさ」と笑う。
「自分の道は一人ではなく、誰かと描いていくもの」——。静かに語るそんな思いを彼女は作品に代弁させようとしているのかも知れない。
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上西エリカ個展『庭』は今月29日〜7月31日(午後2時〜10時)まで『FUNARTE』(Alameda Nothman, 1058, Santa Cecilia, tel. 11-3822-5671)で開催される。なお、28日午前10時からオープニングが行なわれる。