ニッケイ新聞 2011年5月26日付け
先ごろ書類の整理をしていたら、昔手伝った自分史の原稿が出てきた。
米寿の節目に幼少時から渡伯、青年期の思い出を綴った文章は、子孫のためにとルビを振り、ポ語訳をつけて製本された。筆者が昨年亡くなったと聞いて、その一冊の価値を改めて思った。
記者が渡伯した時、コチアも南銀も既になかった。まして戦中戦後の混乱期など知る由もない。そんな若者がその時代の空気をそれなりに感じることができるのも、書物や、そして根気よく話を聞かせてくれた先達のおかげだ。
例えば今、東北地震の津波で消えた町の人達にとって、以前の町の写真や映像はどれほど大切なものだろう。同じように、今何気なく語られ、記されていることが将来大きな価値を持つのかもしれない。一人ひとりの言葉が過去、現在の日系社会を未来へ伝えていくのだと思う。(ま)