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イビウナ庵便り=中村勉の時事随筆=人間の問題=11年5月30日

ニッケイ新聞 2011年6月1日付け

 エネルギーと食料はよく似た側面がある。エネルギーを科学的・技術的問題と捉えていては問題の全体像が見えてこない。食料も全体像を把握するには農水産の専門家のみに任せてはならない、と思う。どちらも人間の問題だからだ。
 人間は、社会的存在であり、文化的、宗教的存在だから、一筋縄にはいかない。経済学的、政治学的、心理学的、文化人類学的側面からの議論も必要だ。今は科学的・技術的議論が先行しその他の観点(一からげに文明論)は後回しにされている。原子炉の安定化が達成されねば、有効な文明論も始まらないからだ。
 いずれフクシマは、科学的・技術的側面からだけにとどまらず様々な観点から論ぜられることになる。川柳「バカにした顔で答える専門家」では済まない。
 エネルギーに於ける原発と同様、食料に於ける肥料や農薬も多くの被害を人間に及ぼしてきた。その結果、有機農法や自然農法(アグロフォレストリー等)、が生まれたが、従来の農法に取って代わっていない。自然農法がよいと分かっていても現在の世界人口を養うに充分でないからだ、と言う。こうして、坪枯れや蜜蜂の失踪等の奇怪な現象が起り、続いている。同様に、自然エネルギーが好ましいことがわかっているが、それでは日本の人口を養えない、と言う根強い議論がある。
 それでは肥料・農薬漬けの農法でこのまま続けるべきだろうか?そうではあるまい。人口増を無限に続けることは不可能だ。同様に、原子力エネルギーで無限に需要増を賄うこと(これを安定供給と言う)が正義だとする論法はあるまい。人類全体が「もっともっと」と深みに堕ちこむ麻薬患者になることはない。食料もエネルギーも供給に限界が見えてくれば、人口もそれなりに減って行く筈だ。公園の鳩は、観光客や動物愛好家が餌蒔きを止めたら、減っていった(NHK)。
 「大規模・集中型から小規模・分散型へ」がキーワードだ。大都市から中小都市へ、食料も電力も地産地消型へ、エネルギー源も自然エネルギーへ、太陽光、風力、地熱、水力も小型化し分散していくものと思う。原発さえ小型化を求められている。安全が大きなコスト要因になったからだ。東京都の最大コストは直下型地震が起こった場合の集中によるコストだ。大都市の人口を分散しない限り、安全コストの削減はできない。安全コストは分散以外に方法はない。その為には、小型化が不可欠だ。
 もう一つのパラダイムシフト(編註=価値観の劇的変化)は国家主権主義の老化現象だ。G8やG20、国連など国際機関なしでは何事も決められなくなっている。国家とは何か?が問われている。