ニッケイ新聞 2011年6月29日付け
柔道の総本山・講道館が正式に認可した段位の取得を希望するブラジルの柔道家に対し、昇段を審議して日本の講道館に推薦する委員会が、全伯講道館柔道有段者会(関根隆範会長)内に発足しつつあることがわかった。同会の副会長で柔道家の石井千秋氏が、「講道館の段位が欲しい人に朗報がある」として、報告のために来社した。
日本の講道館の昇段基準は、世界各国の柔道国がそれぞれ設けているものと比べて非常に厳しいという。ただ実力だけを見るのではなく、柔道の普及・発展に対する貢献度、技術体得の程度、人格も評価される。
ブラジルには各州に柔道連盟があり、それらを統括する「ブラジル柔道連盟」が段位を発行している。その昇段基準は設立当初、日本の講道館のそれに合わせたものが定められ、設立から数十年の間に、ブラジルの風土や事情に応じて審議されるようになったものの、今では連盟の段位も十分国際的に価値が認められるようになっているという。
ただ、最も力が強く、いわば世界中の柔道の「家元」とも言える講道館の段位を取得したいと考えている、日本に対する思いが強い移民1世の柔道家がブラジルに少なくない。そのため、岡野名誉会長は調整中だがいち早く彼らに報告したかった、と話す。
同会では、このたび岡野脩平名誉会長が設立準備委員長となり、ブラジル講道館昇段委員会が立ち上がりつつある。
この委員会が昇段候補者を申請し、日本の講道館が検討した後、昇段の承認が下りることになる。現在はまだ、委員会発足に向けて調整が行われている段階。
正式な委嘱状が日本の講道館から出た時点で、日本の講道館が有段者会に、ブラジルの昇段候補者の審議を委嘱する制度が整う。
昇段の対象者は、ブラジル在住の柔道家で、ブラジル柔道連盟の段位を取得した者とされる。日本移民高齢者が優先され、準ずる日系人高齢者も対象となる。また、非日系人も順次対象となる。
さらには、ブラジルに在住する他国籍者でも各国の段位取得者であれば、ブラジル柔道の普及と発展に尽力した人は特例で推薦される。
今回の委員会発足の契機となったのは、日本の講道館設立100周年を迎えた82年に、ブラジルで行われた記念大会。その際来伯した嘉納行光館長(当時、現在は名誉館長)は、長年にわたって正しい日本の柔道の普及、発展に尽力した数多くの戦前移民の柔道家を目の前にした。
今や世界中に柔道国があるが、ブラジルで日本の講道館の柔道に近い素地が作られているのは彼らの功績だとして、希望する人にはぜひ講道館の段位を与える機会を設けたい、という申し出があったという。
講道館から正式な委嘱状が届いた段階で、改めて広報される予定。詳細の問い合わせは、岡野さん(11・3277・9404)まで。