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【第8回ブラジル太鼓選手権大会】響け!震災復興祈念曲「槌音」=30チームが熱演する=パラナ勢3部門を制覇

ニッケイ新聞 2011年8月6日付け

 全てはこの一曲のために——ブラジル太鼓連盟(島田オルランド会長)主催、友協組(森本ネルソン代表)共催、『第8回ブラジル太鼓選手権大会』が先月31日にサンパウロ州プレシデンテ・プルデンテ市のプルデンテ体育アトレチコ・クラブで開催された。10代、20代を中心に、全伯から30チーム約400人が出場。「優勝」へ向けた思いを太鼓に込め、勇壮な熱演を繰り広げた。ジュニア部門ではクリチバの「若葉太鼓」が制し、日本である全国選手権への切符を手にした。リブレ部門でもパラナバイの「寿太鼓」が栄冠を勝ち取った。

 遠くはブラジリア、南大河州などから500人以上の選手や家族が訪れ、会場の周りは貸切バスでいっぱいになった。今年はジュニア部門(18歳以下)に12、リブレ(年齢制限なし)には13、マスター(45歳以上)に3、ジュニア・リブレの昨年度覇者の2チームがそれぞれ出場し、一年間の練習の成果を競った。
 大会に先立ち、日伯両国歌斉唱、先亡者及び東日本大震災犠牲者への1分間の黙祷がなされた。その後、昨年度覇者の「轟太鼓」(オザスコ)、「初美太鼓」(サンジョゼ・ド・リオ・プレット)から優勝トロフィーが返還された。来賓の西本エリオ州議が大太鼓を叩き、大会開始の合図が鳴らされた。
 審査員は、箕輪(みのわ)敏泰JICAシニアを委員長に、高数義、泊エリザ、岡崎ワルテル、国吉フェルナンド、山本ユウジ、田中マルコス、大石マコト各氏が務めた。午前9時半からジュニアの部が開始。日本で開催される全国大会出場を懸けた、真剣な打ち合いの幕が切って落とされた。
 打ち手が揃いの法被を身にまとって凛々しい表情で舞台に立つと、「宜しくお願いします」と日本語で挨拶。立ち見が出るほどの超満員となった客席からは、ボンボンや横断幕を用意した応援団が大声援を送った。
 演奏に大小の長胴・桶胴・締太鼓の他、鉄管や横笛を用いるなど、限られた人数で特色を出そうと工夫が見られた。

「ガンバレー日本!」

 箕輪審査委員長が震災復興を祈り作曲した課題曲「槌音」(1分)を、各チームは与えられた5分間の中に組み込んで演奏した。津波と地震、それを知らせる鐘の音を各チーム見事に表現、大人顔負けの迫力ある音で会場を圧倒した。どのチームでも曲中に「ガンバレー日本!」の掛け声が入り会場を沸かせた。
 曲は終わりに近づくにつれ徐々に盛り上り、ポーズで最後を決めると、割れんばかりの拍手が会場に響いた。打ち手は清々しい顔で、「ありがとうございました」と日本語で挨拶した。
 同市在住の飯島美佐子さん(73、二世)は、「皆さんとても上手ですね。若い人がこれだけ一生懸命に叩く姿を見ていると、音が心にまで響いてきます」と語った。

発表の瞬間、感動の渦に=太鼓で自分を磨く若者達

 午後から行われた開会式ではミルトン・カルロス・デ・メロ=プレシデンテ・プルデンテ市長、飯星ワルテル連邦議員、西本エリオ州議、纐纈俊夫汎ソロカバナ日伯連合文化協会会長ら来賓が出席し、祝辞を述べた。
 リブレの部では音の大きさや一体感が更に増した。バチを投げて交換したり、ほら貝を用いたりと演奏の幅も広がり見せる要素が多くなった。
 45歳以上のマスター部門でも拍子をしっかりと取り演奏、リオ日系太鼓はバチをオールに見立てて川を表現するなど趣向を凝らし、来場者は目を瞠っていた。
 大太鼓個人では広いステージの中心に太鼓が据えられ、打ち手は「ハーッ」と気合を入れると会場に背を向け太鼓と対峙した。2本のバチのみで展開を構成し、巧みなバチさばきに拍手が上がった。
 昨年度優勝した2チームも演奏。貫禄さえ感じさせる仕上がりを見せた。名古屋で開催される第13回日本太鼓ジュニアコンクール参加のため今月9日に日本へ発つ轟太鼓は、「ブラジルを代表して一生懸命演奏してきます」と挨拶し、観客は拍手で送った。
 表彰式では30チームの熱演を評価した審査員に労いの賞が贈られた。各カテゴリ5位から準優勝までは会場からの歓声が大きかったものの、優勝発表では一転、会場全体が静まりトロフィーの行方を固唾を呑んで見守った。
 発表の瞬間、緊張していた表情が崩れ、号泣して抱き合っていた。客席からも雄叫びに近い声援がステージの選手に注がれ、会場は感動の渦に包まれた。
 ジュニア優勝を果たした「若葉太鼓」リーダーの田中健三さん(19、三世)は、「太鼓は音が屋外まで響き、近隣の住民からの苦情も。毎週練習場所を探すのが大変でした」とこれまでの苦労を語った。「この日のために1年間練習を続けてきた。優勝は仲間や父母の協力があったお陰。自分は年齢対象外なので舞台には立てないが、リーダーとしてチームを日本に連れて行きたい。夢が叶って本当に嬉しい」と涙を拭きながら話した。
 「若葉太鼓」に指導を行っていた上村コウキさん(25、3世スザノ)は、「疲れた時に出てくる『もうできない』という気持ちを抑え、練習についてきてくれた皆に感謝したい」と笑顔で話すと、自然に上村さんを打ち手が囲み、ステージ上で胴上げがされた。
 「小さい子たちに教えているうちに、自分の太鼓も磨かれたのでは」と振り返るのは、大太鼓個人の部で優勝し、一般の部優勝の「寿太鼓」を率いた伊川フランクリンさん(18、三世)。「大太鼓のスケールに魅せられて」と4年前から始めたという。現在はスーパーで働きながら、3時間の練習を週二回続けている。「冬休みの7月に入ると毎日練習でした。今日は祖父の四十九日。優勝を伝えたかったです。もちろんこれからも太鼓は続けます」と喜びを語った。