ニッケイ新聞 2011年8月16日付け
パロッシ元官房長官を巡る疑惑表面化以来、人事浄化や前政権からの負の遺産ゆえの財政引締めなどに揺れるジウマ政権で、行政と立法の対立が目立ち始めた。下院での審議放棄や連立与党の共和党(PR)が離脱を匂わせるなど、大統領の頭痛の種が続きそうだ。
ルーラ政権の成長路線継続を期待されたジウマ政権にとり、前政権が残した負の負債ゆえの緊縮財政と、運輸、農務、観光各省を巻き込んだ汚職の表面化は、予想以上に早い行政と立法の対立を呼んだ様だ。
前政権晩年に言われ始めた緊縮財政はジウマ政権ではなお深刻で、国会議員が前政権時代に提出した法案中、実行されても経費が払い出されてない事業や実行さえされていない事業は山積。レスト・ア・パガーと呼ばれる未払い経費の請求期間延長後も、議員達の不満は高まっていた。
更に、資産が短期間に20倍に急増と報じられたパロッシ元官房長官の辞任後、運輸省絡みの汚職が表面化。PRのアウフレッド・ナシメント運輸相辞任後、PR所属ではあっても同党の意向にそわないパウロ・セルジオ・パッソス副大臣が昇格したが、同省内外のPR関係者や労働者党(PT)関係者ら27人が更迭された。
農務省や観光省絡みの汚職で揺すぶられているのは民主運動党(PMDB)やPTで、連邦警察による容疑者逮捕が大統領にも通達せず、手錠まで使って行われた事は、部局長レベルの人事選定の遅れで生じていた政府と連立与党間の不協和音を更に大きくした。
こうした不満が具体的な形をとって表面化したのは、12日付エスタード紙が報じた下院での審議放棄。PRが切り出した反抗案に乗じたのは、PMDBやブラジル労働党(PTB)キリスト教社会党(PSC)、進歩党(PP)所属の議員約200人。中国との協約に関する承認を見送り、軍警や市警、消防士の初任給引上げや保健衛生関係の最低枠制定に賛同する姿勢を打ち出した。
今年一杯で切れる、税収の20%までの使途を政府が自由に決められるというDRUの2015年までの延長案否決と、汚職などの調査審議委員会(CPI)設置支持も交渉材料の一つだ。
また、連立与党間協議にも欠席し始めていたPRは、連立離脱の有無を16日に明らかにする意向で、ルーラ前大統領が懸念していた政府と連立与党間の関係悪化が進む可能性も出ている。
国際的な経済危機には備えありと言いつつ、前政権が残した負の負債の影響で、成長率4%以下の予想やセントロンと呼ばれる反抗議員の勢力増長に脅かされ始めたジウマ政権。他党との調整術に長けていた前大統領が調整役として送り込んだパロッシ氏も落ち、留任閣僚の運輸相や国防相辞任など、脱ルーラ的な動きが出てきた事が吉と出るか凶と出るかは、今後の大統領次第といえる。