ニッケイ新聞 2011年9月2日付け
通貨政策委員会(Copom)が8月31日、政策基本金利(Selic)を0・5%ポイント引下げ、年12%にしたと1日付伯字紙が報じた。ジウマ大統領が事前に金利引下げをほのめかしていた事などから、市場では中銀の独立性や決断への信頼度が揺らいだとの声も出ている。
ギド・マンテガ財相が8月29日に基礎的財政黒字目標を100億レアル引上げると発表した直後の通貨政策委員会が、政府の期待通りの政策基本金利0・5%ポイント引下げを決定した事は、歓声と同時に疑問や懸念の声も引き起こした。
基礎的財政黒字目標引上げは、予想以上に好調な税収を支出拡大ではなく、備蓄と公共負債の利息支払いなどに当てるとの意向の表明とされていたが、市場関係者の多くはその時点で、10月には政策基本金利引下げとの予想を立てていた。
というのは、現時点でのインフレ累積は6・87%で、政府の公式目標の4・5%はおろか、上限の6・5%を上回っており、インフレ抑制のための基本金利を即座に引下げるのは不可能と見られていたからだ。
その意味で、今回の通貨政策委員会が5対2で0・5%ポイントの金利引下げを決めた事は、国内外の景気後退への懸念と共に、国内の政治的圧力が大きかったとの見方が一般的だ。
アレッシャンドレ・トンビニ中銀総裁は、委員会直後の会見で、欧米の経済不安は政府の予想以上との見解を明らかにした上、国際的な景気後退がブラジルの経済を圧迫すれば、景気減速でインフレも当然抑制されるし、政府が税収増加分を備蓄と利息の支払いに当てるなら、公共支出によるインフレ圧力も発生しないため、基本金利引下げは可能と判断したと説明。
それでも、ジウマ大統領がここ数週間、マンテガ財相やトンビニ総裁と会見を繰返していた事や大統領や政府関係者の一部が金利引下げ開始に言及していた事などから、中銀が政府の圧力に屈したとの見方が強い。
一部識者の間では、金融政策と通貨政策は両輪だから政府の方針に中銀も和するべきとの声もあるが、市場関係者の中からは、中銀の判断は政府の政策決定とは独立してなされるべきで、独立性が崩れた場合、その決断への信頼も揺るぐとの声が出ている。
また、インフレ圧力低下といいつつ、8月末までのインフレ累積は目標上限を超え、今後12カ月の予想も5・47%、雇用や所得は拡大継続という中での基本金利引下げは時期尚早感が強い。政府提出の来年度予算案は最低賃金を13・6%調整の619・21レアルとして算定するなど、緊縮財政継続を困難にする要因も多いため、来年度の引締め継続を前提とした基本金利引下げにより、インフレ再燃リスクが高まったと見る人も多いようだ。