ニッケイ新聞 2011年9月10日付け
毎年サンパウロ市近郊で親睦旅行を行なう東京都友会(坂和三郎会長、以下都友会)が、8月27日から2日間、多くの日系人陶芸家が活躍する「陶芸の町」クーニャ市を訪れアトリエを見学し、上村孝徳さんが家族で営むホテルに滞在しハイキングや露天風呂を楽しんだ。都友会の会員は現在約120人。「郷土愛の強い他の県人会ように大掛かりなイベントはないけれど、個人を大切に和やかな雰囲気で会を運営している」と岡田本子理事は語る。「無理なく長続きさせたい」という会員の思いを汲み、会費は取らずに年に1回の親睦旅行と新年会を行なっている。
27日朝7時、会員や一般参加39人がリベルダーデ広場に集合、バスでクーニャへ向かった。
一行が訪れたのは、登り窯で陶器を制作して27年の末永公子さん(62、東京)のアトリエだ。窯の傍らに優しく落ち着いた色合いの食器類、壷やオブジェが所狭しと並ぶ。
斜面に階段状に築かれた、複数の部屋に分かれた炉の中を炎と熱が通過し焼き上げる窯を「登り窯」といい、同地には5つ、また約20軒のアトリエがある。
「東京にいた時、『自然の豊かな田舎で陶芸をしたい』という共通の夢を持つブラジル人の主人と出会った」。当時日本文化を学びながら語学を教えていたジルベルト・ジャルジネイロさんが、クーニャの陶芸家たちと知り合いだったこともあり、来伯を決意した。
陶芸に魅せられたポルトガル人の建築留学生、アルベルト・シドラエスさんが日本、ブラジル人らと共に、焼き物に適した土や薪が豊富な同地に登り窯を築き陶芸を始めたのが36年前。
8年後に末永さんが移り住んだ頃は認知度も低く、「陶器のことをもっと知ってもらいたい」と窯を開けて作品を取り出す場面を公開する「窯開き」を始めた。以来、海外からも観光客が訪れるほど名が知られ、他の陶芸家もアトリエを構えるようになった。
「電気やガス窯と違い、最後まで手を離せない登り窯は、自分のエネルギーをくべるようなもの」と登り窯の魅力を語る。焚き方で毎回仕上がりが異なる作品の様々な表情に、参加者たちも興味深く見入り、買い物を楽しんだ。
クーニャは3回目という会員の竹田伸代さん(66、サントス市)は、「ここの渋い陶器が大好き。毎回つい買ってしまう」と嬉しそう。
続いて向かったのは、クーニャとパラチー両市の間、海岸山脈の標高1750メートルに位置するホテル・ファゼンダ上村。経営者の孝徳さん(60、福岡)は、「空気と水は世界一。パライブナ川の源流があり、180もの滝に恵まれる」と土地の魅力を語る。
10歳で福岡から来伯し、20年前にこの土地を購入し、木をふんだんに使って宿泊施設を自分で建設してきた。現在親族とホテルを経営して13年になる。
おいしいと評判の、日伯取り混ぜた妻繁子さんのお手製料理各種がホテルの自慢。石臼や木の味わいあるテーブルを囲み、山々を眺めながら昼食を楽しんだ。お腹を空かせる暇もなく豪華な夕食が振舞われた。雄鶏の寄せ鍋、新鮮な刺身の盛り合わせ、コロッケ、カレーなど10数種類。野菜もたっぷりで健康的な食事に舌鼓を打った。
翌日は、孝徳さんの所有する広大な山をハイキング。前日の雲海がすっかり晴れ、海を一望する絶景には歓声が上がった。雲一つない濃い青色の空は、この海岸山脈独特のものだという。
孝徳さんは、「海岸山脈に世界の7割の蘭があり、植物の多様性を楽しめます」と説明した。85歳と高齢にも関わらずハイキングに参加した大谷日出昭さん(東京、サンパウロ市)は、「初めて参加したが全てが珍しかった」と感想を語った。藤田陽子さん(76、神奈川、サンパウロ市)は、「こういう所に来ると、ブラジルの良さを一層感じる」としみじみ語った。
バス内では、「天気にも恵まれよい旅行になった」と坂和会長が締めくくりの挨拶をし、最後にアパレシーダ市の大聖堂を巡礼して帰路に着いた。