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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年10月25日付け

 「犬公方」と仇名された徳川綱吉は、将軍家光と京都のお玉さんの子であり、若かりし頃は秀才の誉れ高く、5代将軍に就任すると湯島の聖堂を建立。朱子学を官学とし、側近に論語を講じるなどの学識を誇ったけれども、母・桂昌院の影響もあり、あの生類憐れみの令で評判は余りよろしくない。リビアの最高指導者・カダフィ大佐も陸軍士官学校の頃はアラブ民族主義の精神に溢れる精悍な若者であった▼この「砂漠の人」ベドウィンの子は同士らと決起し、イドリス王を追放して革命評議会の議長に就任し独裁政治への道を歩みはじめる。ナセル民族主義に共鳴し、米英伊など西欧諸国と対立する強硬な対外政策をとり、資本主義や共産主義でもない「第3の世界」を選び、代議制政治を否定している。このためリビアは直接人民主義制度を導入する「緑の教典」を採用し、人民が唯一の権力者となった▼この国は豊富な油田を持ち、これが国力を支えているのだが、首都トリポリ東方のレプティス=マグナ遺跡は、現存するローマ帝国最大の遺跡だし、この遺跡のある港湾都市アルフムスは紀元前1000年ごろにフェニキア人が築き古い歴史上の遺跡が多い。と、横道に入りすぎて戸惑っているのだが、あの42年に亙る専制君主もどきのカダフィ大佐も、自らがこよなく愛した?人民の手にかかり「撃つな」と絶叫しながら敢え無い最期を迎えたのは、なんとも情けない▼尤も、死に到る情報は錯綜しており、正確なところは不明ながら—あのNATOの激しい空爆と艦砲射撃にも堪えた砂漠の猛者も、名もない庶民の底力にはとうてい勝てない。(遯)