ニッケイ新聞 2011年11月17日付け
5日目、一行は午前7時半に出発し、アンデス山脈の山間と渓谷の間を、チリの国境間近を目指して進んだ。まずメンドーサから南西方向に約60キロのポトレリーリョス村(標高1354メートル)の湖を臨む場所にバスは止まる。雪が解け始めたばかりでまだ水は少なかったものの「多い時期で水深120メートルになる」と現地ガイドは説明した。
「プンタ・デ・ヴァカス」と呼ばれる村落(標高2325メートル)を通る頃には山に雪
が残っているのが見え始め、プエンテ・デル・インカ(「インカの橋」の意、標高2720メートル)、ラス・クエバスと呼ばれる集落(標高3112メートル)までくると冷たい風が吹き付け、長時間外にいられないほど寒い。
ガイドの説明では、この集落には現在13家族のみが生活しているという。最高峰のアコンカグアの望める場所で一行は「寒い!」と叫びながらも写真を撮り、休憩所で民芸品を購入したり、わずかに残った雪に触れたりしながら楽しんだ。
ホテルでの最後の夕食では、1961年のこの日(10月10日)、サントス港に到着した大分県出身の岐部悦治さん(73)、鈴子さん(74)夫妻、90歳の誕生日を11日に控えた小原あやさん(90、岩手)、8日に米寿を迎えた有馬寛さん(88、福岡)が祝福された。
ボツカツ在住の小原さんは56年に構成家族で来伯した。「旅行が大好き。各地を回ったがスコットランドが一番良かった」という。健康の秘訣を聞くと、「呑気だからかしら」と穏やかな笑顔を浮かべた。ボツカツ文協の図書館に、設立以降10年以上ボランティアで勤めるほか、フランス語も趣味で勉強中だという。
最後の夕食の席で、一行の浜口洋さん(67、三重)は「郷里の話に花を咲かせました」と在亜日系人連合会での交流会を振り返り、「08年の県人会65周年式典に来てくれた3人に再会できた。こういうのはふるさと巡りでないとありえない」と満足げに語った。
向田重子さん(76、群馬)、福元美代子さん(78、宮崎)は半世紀ぶりの再会を果たした。2人とも59年4月23日にサントス港に到着した「あめりか丸」に乗り、向田さんは結婚後、福元さんは花嫁移民として来伯した。
「席が前後でそれぞれお喋りしていたら偶然わかったの。いつ来たの?という話になって」と向田さんが言うと、「船の中で天皇皇后両陛下のご成婚を祝っておかしらつきの鯛が出た」と福元さんも懐かしそうだ。
最終日午前中にホテルを出発した一行は、メンドーサからブエノスへ、ブエノスからサンパウロへと飛行機での移動に追われながらも「今回は今までで最高だったわね」「次が楽しみ!」と口々に言いながら、旅の終わりを惜しんでいた。
夜無事にグアルーリョス空港に到着すると、「また会いましょうね!」と挨拶しながら、荷物を抱え家路へと向かった。(終わり、田中詩穂記者)
写真=10日夜、ホテルのレストランで祝福された4人(上)/アンデス山脈を臨む高地で。気持ちの良い晴天に恵まれた