ニッケイ新聞 2011年11月26日付け
「僕が小さい頃、カナシロ(=金城)という単語は〃レストラン〃と同じ意味だと思っていたよ」。沖縄県系(ウチナーンチュ)への近親感をあらわに、そう英語で演説して会場を爆笑の渦に巻き込んだのは、ハワイ州知事のニール・アバクロンビーさんだった。同じ太平洋の〃島人(しまんちゅ)〃、ハワイ生活者としての同胞意識が言葉の端々から伺えた。
同大会では、あらゆる場面でハワイ勢の存在感が強い。ハワイに関する何かが発表され、ハワイ代表がコメントする。県系人最多のブラジルから1千人だが、ハワイからも同数が馳せ参じていた。しかも飛行機を2機もチャーターした。この精神的な近さは何なのか。
「現在、ハワイの全人口に占める日系人・日本人の割合は28%に低下しています」。『ハワイパシフィックブレス』紙社長の仲嶺和男さん(72、沖縄)は琉球大学移民研究班が主催した国際フォーラム「海外日系紙記者のみた移民社会」でそう報告したのを聞き、耳を疑った。
ブラジルの場合、日系人の比率は国全体の0・7%に過ぎない。日系人の最多集中地域であるサンパウロ州(4125万人)に150万日系人の7割が在住しているとしても、わずか2%だ。
ところがハワイでは28%に〃低下〃しているとし、「少なくなったとはいえ、未だハワイ人口の3分の1を占めている。ハワイの日系人・日本人は少数民族ではなく、多数民族です」と仲嶺さんは付け加えた。現在のハワイ全人口が127万なので、36万人を誇る。
かつて、どれだけ多かったのかを尋ねると、「太平洋戦争が勃発した頃は、ハワイ全人口の44%、約半分を占めていました」というので、文句なしに〃多数民族〃だ。米国本土を含めた全日系人数は約110万人で、総人口に占める比率は0・4%とブラジルより低いぐらいだ。ところはハワイだけを見れば密集している。ハワイは世界の日系人にとっても特別な場所といえる。
しかも、ハワイの36万日系のうち沖縄県系は一割強、4万5千人を誇る。ハワイ沖縄連合会(仲宗根ノーマン正明会長)の会員は約9千世帯だというので、一世帯5人だとして4万5千人は十分ありえる数字だ。
そのうちの1千人、「40人に一人」が今回訪沖した。ハワイ州知事にとっては、州人口のたかだか4%(4万5千人)の少数集団ではなく、〃多数民族〃の中の中核グループと認識して、わざわざ大会に参加したに違いない。在外県系人は全部で40万人なので、1割強がハワイ在住だ。
ブラジルでは日系人口150万人中の一割15万人が沖縄県系だから、在外ウチナーンチュの中では最多の4割を占める。
つまり在外ウチナーンチュの半分をブラジルとハワイで占め、残り半分が北米本土や他地域に散らばっている。
ハワイ勢とブラジル勢は在外県系人の中で最も結束が強い両輪だ。この二大勢力が競い合うことで海外勢は活性化してきた。例えば、サンパウロ市ヴィラ・カロン区のオキナワ祭り(第9回)は、今年29回目を迎えたハワイのオキナワ・フェスティバルにヒントをえて始められた。開会式の挨拶でハワイ州知事は、「世界中から5万人以上が集まる、ハワイで最も成功している民族の祭典の一つ」と讃えた祭りだ。ウチナーンチュ大会で交流した成果が現実のものとなって当地にも賑わいをもたらした実例だ。
ちなみに沖縄県の人口は140万人。在伯沖縄県系だけで、母県人口の一割以上に相当する。全在外40万人では30%であり、けっして小さくない。(敬称略、深沢正雪記者)
写真=琉球大学に収蔵されることになった『ハワイパシフィックプレス』をしみじみと眺める仲嶺さん