第3回=記念撮影という〃儀式〃=移民の家系図は世界的資料

ニッケイ新聞 2011年11月29日付け

 「なぜ人は記念写真を撮るという〃儀式〃をするのでしょうか?」
 10月15日朝、沖縄県立博物館で第1回国際ウチナーンチュ祖先シンポジウムの開会あいさつをしたハワイ州知事のニール・アバクロンビーさんは、展示されている移民の記念写真を差しながら、そんな質問を投げかけ、自答した。
 「人間は何処へいっても、自分がどこからきた誰で、誰と一緒にいるかという過去を残そうとするからです。人間はいろいろな〃儀式〃で社会を組み立てている。儀式を自分が主催して、時に人の儀式に参加して、日々生きている実感をえる。儀式こそが私達の価値観の基盤である。儀式の繰り返しなくしてかつての自分、今の自分、今後の自分はありえない。それは過去、現在、未来を知ることが出来るのは人間だけだから。過去への考察を深めることは、全ての原点である」と長い前置きをし、「特に琉球人にとってはそうでしょう?」と問いかけた。
 「北側の島々(九州以北)の人は国内しか動かなかったが、琉球人は星の案内で海を渡った尊い歴史を持っている。ハワイにはその家族がたくさん住んでいる。私は前夜祭のパレードにブラジルやザンビアのウチナーンチュと一緒に参加して、我々は同じ太平洋の〃島人(しまんちゅ)〃として共感しあえることがよく分かった」と結んだ。
 沖縄に限らず、どんな県人会、日系団体にとっても式典などの〃儀式〃は最も重要な活動だ。母県や関係団体から来賓が来て、お互いの絆を確認する重要な場といえる。
 式典という〝儀式〟は、ハワイ知事がいうように、節目である現在を大事な人々と共に過ごすことによって、過去を踏み固め、未来への橋渡しを確実にするものだ。その〝儀式〟ができなくなった時、つまり召集しても会員が集まらない、呼びかけても開催に必要な資金が集まらない時などは、その組織の存在意味が薄れた時なのだろう。立派な式典をして、記念写真を撮り、記念誌にまとめる。それら一連の〃儀式〃を続けること自体が会の存続理由といえる。
 ハワイ大学マノア図書館所蔵の、沖縄の家系図「毛姓家譜(もうせいかふ)」中の人物が、同大学所蔵の別の絵図記録にも出ていることが確認された件についての発表も行なわれた。「合致するのは非常に珍しい、しかも両資料ともハワイに偶然あった」と同研究員から驚きの報告があった。
 「家譜」とは、琉球王朝時代に士族階級の家系図として作成された。沖縄戦を潜り抜けて保存されたこの家譜は、1960年代にハワイの親戚のもとに送られ、散逸を恐れた子孫によって同図書館に寄贈されていた。移民が沖縄の歴史をハワイに運び、母県でも珍しい貴重な成果を生んだ。
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 同シンポの中で、沖縄国際大学の田名真之(たな・まさゆき)教授は家譜制度について説明した。琉球王朝時代の士族は「日本と付き合うための日本名に加え、たとえ中国に行かなくても付き合う必要性があることから中国名もつけ、それが系図に反映された」と家譜に現われる沖縄独特の二文化性を分析する。
 家譜なら家系は300〜400年も歴史をさかのぼれる。「ところが王朝が廃止されて沖縄県になってからは、同じレベルの詳細な記録は残っていない。遠い御先祖さまのことは分かっても、お爺ちゃんからこっちのことは分からないという奇妙なことになっている」と問題提起した。
 さらに「どうして移民に行って、どのような生活をして来たのかを、みなさん、今からでもいいから記録して欲しい。それらは沖縄の歴史だけでなく、世界の近代史の中で貴重な資料になるはず」と会場に並ぶ海外子孫に呼びかけた。これはどの県人の家族史についても同じことがいえる。(深沢正雪記者、つづく)

写真=ハワイ州知事のニール・アバクロンビーさん