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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年12月16日付け

 当地には県人会が多々存在するが、実は移民と「郷土愛」ほど相反するものはない——と証言映画『闇の一日』(IMJ、奥原ジュン監督)を観て痛感した。生国を離れたからこそ移民であり、離れたからにはそれ相当の理由があったはず。出たほうが良いと判断せざるを得ない状況や、自分は出たくなかったが家族の判断でそうせざるを得なかった事情や、若さゆえの勢いも人生にはあっただろう▼どんな事情であれ、故郷を離れた瞬間から移民は「望郷心」という〃病〃に執り憑かれる。郷土に居たときには感じなかった強い郷土愛に目覚め、異文化ストレスの強い環境の中でそれを溜め、憧れに似た心持ちで地球の反対側の祖国を眺めた▼その結果が、日本在住者には理解が出来ないほどの強い郷土愛として結晶化する。それが日本のナショナリズムと結びつき、戦争中の強烈な迫害体験によって平時ではありえない極端な域にまで達していた。郷土愛と祖国愛は不可分のものであり、「日本戦勝」を信じただけで刑罰を受けて〃島送り〃にされるブラジル側状況も、まともとは言いがたい▼戦争という特殊状況による病気ギリギリの集団心理の中で、最も先鋭化したごく一部の若者が要人暗殺を実行した。証言映画の主人公・日高徳一さんが考えていたことは特殊なことではなく、当時のコロニアの多くがその方向性に共感していたのではないか。だからこそ、これが呼び水となって共時発生的に同様の事件が頻発した▼従来のように「狂信」と蔑み隠すのではなく、むしろ光を当てて真相を明らかにし、当時のコロニア大衆の気持ちの奥底を掬い上げようと試みる証言映画だ。(深)