ニッケイ新聞 2010年1月7日付け
ブラジル空軍が、超音速戦闘機更新のためのプロジェクトFX2の機種選定で、スウェーデン製のGripenNGを推薦するという意見書の内容が5日付けフォーリャ紙で報じられたことで、大統領府は意見書の内容を無視する意向と6日付け同紙などが報じた。ルーラ大統領は既にフランス製のRafale機36機の購入を内定し、伯仏間の技術協定へ向けた足固め中で、機種選定は政治取引の色合いを強めている。大統領側近らが「一部が書き直され、機種の性能比較ではなく技術移転と戦略協定に重点を置いている」という空軍意見書は、5日の時点では国防省にも提出されていなかった。
フランス政府と戦闘機製造会社ダッソー社は、ブラジル政府との政治取引により、機種選定はフランスに凱歌が上がると期待している。購入予算100億レアルは、ブラジル空軍近代化のはしりに過ぎないようだ。
空軍意見書によれば、大統領が内定したフランス製戦闘機は候補3機種のうちで、性能は最低で価格は最高としている。空軍は大統領府従属ではなく、独立した機関であり、大統領府が交わした伯仏軍事協定には直接は関知していない。
大統領判断には、伯仏軍事協定の立案者ジョビン国防相の意向も反映されている。同軍事協定には、数々の秘密協定もあり、超音速ジェット戦闘機の他に、原潜や軍事用ヘリなど200億レアルに上る買い物もある。
空軍報告書が結論は大統領に一任としているが、あくまで国家安全保障上の見解であると締めくくっている。政治的判断となると、軍政時代の政治犯虐待捜査の問題もあり、軍部と行政府間のわだかまりは、避けがたいようだ。
一方、空軍意見書は、野党にルーラ大統領の独断で誤った判断を下したとする攻撃材料を提供。野党は、軍の専門家による鑑定を待たず、素人が政治的理由で機種選定を先走ったことを咎めた。
政治的配慮よりも国家安全保障を優先すべきだと、上院外交委員会のアゼレード委員長(PSDB=民主社会党)はいう。伯仏間の政治取引には、多分にルーラ大統領の個人的感情が働いているという見方だ。
GripenのSaab社は、非公式な情報とはいえ「空軍が同機を選んだことを光栄とする」と述べているが、ブラジル政府の機種選定には性能よりも感情が先行しており、報告書漏洩で、政治取引の色合いがより強くなる可能性や、機種選定作業そのものが先延ばしとなる可能性もある。
米ボーイング社は「ブラジル政府が、自社機の性能と戦略的優先度に従って妥当な判断を下すことを期待する」との声明を発表した。米社もフランスと同様に、軍事技術の移転にやぶさかではないとしている。