ニッケイ新聞 2010年2月5日付け
イランのアハマディネジャド大統領が2日、国連要請通り、国内保有の低濃縮ウランを国外に搬送し、加工・処理する案を受け入れると発表した後、イラン原子力庁のサレヒ長官が3日、ブラジルを搬送先の候補国の一つに指定と4日付けフォーリャ紙が報じた。ブラジル政府は何ら意思表示をしていないが、ブラジルを巡って情勢が目まぐるしく変化している。アモリン外相が12月にイラン訪問後間もなく、マタキ外相が国外での濃縮計画に言及。今回、サレヒ長官は、同計画推進におけるブラジルとイランの外交関係強化に言及した。ルーラ大統領顧問団が5月、イランを訪問予定。
ブラジル政府から公式発表は一切ないが、台風の目とされるイランとの関わりは水面下で進行しているようだ。ジョビン国防相は、ブラジル政府がイランの核開発計画を信憑性のあるものであると認識しているという。
イラン政府がIAEA(国際原子力機関)に対し低濃縮ウランの加工・処理は国外で行うという案件受け入れを認めた背景には、制裁強化の可能性を前にした時間稼ぎとの見方もある。また、国外に搬送した低濃縮ウランを、医療用放射性物質生産用の研究炉で使う濃縮度20%のウラン燃料に加工して国内で受取るという、IAEA提案の濃縮計画の中で、搬送を受けたブラジルが直接濃縮加工するのか、IAEAの立会いで名を貸すだけなのか明白でない。
関係者はブラジルの関与について、確信より疑問の方が大きいという。IAEAは、イランが在庫するウランの量と濃度を把握しているかが、第1の疑問。それによって平和目的か戦争目的かが判明するとしている。
ブラジル外務省の談話では、イランを主役とする同芝居でブラジルの役柄は何か判然としない。つまらない端役なのか、重要で危険な役なのか。宗教指導者らの話では、イランに原爆はないと関係者は見る。
ブラジルがイランのウラン濃縮を始めると、米政府がTNP(核物質管理協定)に加わるようブラジル政府に圧力をかけることは間違いない。米国はブラジルが、世界3大ウラン埋蔵国の一つであり、濃縮技術を有することも知っている。
もう一つ気になることは、伯仏軍事協定だ。同協定が原子力潜水艦製造を含むため、仏原子力公団もブラジル国内の埋蔵ウランやその濃縮技術に関心を持っているが、イランとは対立的立場のサルコジ大統領が、ブラジル・イランのウラン取引をどう見るかも問題だ。
ブラジルの立場は、まだ藪の中。ブラジルがIAEAの名の元で濃縮ウランを貯蓄しておくだけならば問題がないが、何らかの形で濃縮作業を行うならIAEAの査察対象となる。ブラジルは年末までに、イエローケーキ(6フッ化ウラン)を気化させて3%程度に濃縮するガス拡散法を習得する段階だ。