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天皇陛下「立派なリンゴ」=SC州産お誉めになる=両手で丸く形を作られ=昨年歌会始で筒井さんに

ニッケイ新聞 2010年2月10日付け

 〃献上〃されたかどうかが話題になった「ピエダーデの柿」に続いて、「サンタカタリーナのリンゴ」が話題になっている。昨年1月15日に皇居の宮殿「松の間」で行われた新春恒例「歌会始の儀」で、入選した筒井惇さん(あつし、74、三重)=サンタカタリーナ州在住=が天皇陛下から「サンタカタリーナ州は立派なリンゴができますよね」と直接に言われたという。同州でリンゴを生産するのはサンジョアキンのリンゴ団地が有名だが、当時ラーモス移住地も生産していた。できる限り入手経路を追ってみた。

 「エタノール生産工場中(なか)にして甘蔗畑の四方(よも)に延びゆく」
 同州ジョインビレ在住の筒井惇さんの入選作も、歌会始の儀ならではの独特の節回しで披露された。
 応募2回目にして入選するという快挙を成し遂げた筒井さん。歌会始の儀の後、入選者10人だけが連翠(れんすい)の間に特別に通された。
 恐縮して立つ筒井さんのわずか1メートルほど前に両陛下がお立ちになり、「あなたがサンタカタリーナに住んでいるんですか」と声をかけられ、「はい」とお答えした。
 すると「陛下は両手でリンゴの形を作られ、『サンタカタリーナには立派なリンゴができるんですよね』と感心したように何度も言われた」と筒井さんは思い出す。
 「陛下は皇后陛下に向かって『いつ頃だったか?』と質問されると、『クリチーバを訪ねた時です』と答えられ、『もう10年経ったか』と感慨深そうに、懐かしそうにされていました」。
 皇后陛下は「サンタカタリーナでは日系人はどのようですか」などと尋ねられたという。
 筒井さんは「通常は一人3分制限だと言われていましたが、6分以上も話されたのではないかと思います」と話す。
 「両陛下はブラジルにすごく想いを持っていらっしゃることが強く感じられました。陛下は『百周年式典もありましたね』とのべられ、日系人のことをとても気にかけられている様子がひしひしと伝わってきました」
 「味については?」と筒井さんに聞くと、「それは特に言われていませんでした」という。見ただけで「立派」と言われたのか、それとも実際に食べられた上で、味も含めて「立派」と表現されたのか。そしてサンタカタリーナのどこ産だったのか――疑問が湧いてくる。

どちらのリンゴか?

 70年代からリンゴ団地が造成されたサンジョアキン。しかし、ラーモス移住地にも生産者はいる。サンジョアキンから選りすぐりのリンゴが、クリチーバ総領事館に届けられていたとの噂も流れていた。
 サンジョアキンの生産者、平上(ひらがみ)文雄さん(60、和歌山)に噂の正否を尋ねると、「あのとき、サンジョアキンから誰かが総領事館にリンゴを持っていったという噂を聞いて、みんなに尋ねて回ったが、実際は誰もいなかった」という。
 「しかし、陛下がクリチーバで食べられたのがフジならサンジョアキンでしょう。他では寒さが足りない関係で、どこに出しても恥ずかしくない立派なものは難しいですから」とコメントした。

確かに食べられた

 97年、クリチーバ総領事公邸で両陛下がお食事をされた時、料理を担当した木下利雄氏(74、北海道)は「サンパウロ市セントロの市営市場で、サンタカタリーナ産のリンゴとピエダーデの柿を買って持って行った。
 リンゴはサンジョアキン産だったか、ラモス産だったか憶えていない。ピエダーデの柿も生産者の名前は分からない。野菜はクリチーバの市営市場で、ともに日系人のバンカで買った」と証言する。
 「お赤飯、ヒラメのあんかけ、なすびのしぎ焼き、揚げ豆腐などをお出しし、デザートにそのリンゴ、柿などをお出しし、確かに食べられた」と断言する。やはり両陛下は同州産リンゴを食べられていた。
 「娘が配膳役で最初ビクビクしていたが、皇后陛下に温かいお声をかけられ、『おいしい』と言っていただけたので、最後の方は安心してできたといっていた。『両陛下が喜ばれた』と聞いただけで私にとっては大変光栄だった」と木下氏。
 それで「リンゴの種類は?」と問うと、木下さんは「もちろんフジです。市場で一番立派なフジを1ダース買いました」と答えた。

ラーモスあってのSJ

 確証はない。でも限りなくサンジョアキン産の可能性が高いようだ。
 ただし、ラーモス移住地の山本和憲さん(60、千葉)は「ブラジルのフジの原木は、小川克巳さんの農場にあります。元々はラーモスで苗木を作って、サンジョアキンのリンゴ団地に持って行ったんです」と解説する。
 つまり、ラーモスのリンゴなくしてサンジョアキン(SJ)もなかった。その意味で、正しく〃サンタカタリーナのリンゴ〃といえる。
 市場で購入した品物だけに、宮内庁に正式な手続きを経た献上品ではない。でも、両陛下が「サンタカタリーナといえばリンゴ」とのイメージを持っていらっしゃることだけでも、地元日系人にとっては大変な名誉なことだといえそうだ。