ニッケイ新聞 2010年2月13日付け
「すべてが新しい経験、毎日学ぶことばかり。柔道よりこっちの方がハードですね」。4歳の時から、常に畳の上で勝負を重ねてきた石井ヴァニアさん(36)が、新しい舞台に立って奮闘している。ブラジル柔道を代表して二度、オリンピックに出場した経験を持つ彼女が引退後、新しい挑戦の場所として選んだのは、なんとレストランの厨房だった――。
「これでもだいぶ減ったんですよ」。腕にいくつもつけた火傷の痕を見せながら、割烹着姿で生き生きと話すヴァニアさん。昨年9月に親戚の経営するサンパウロ州ブラガンサ・パウリスタのポルキロ・レストラン「A NOSSA」を、姉の石井・原美恵さん(39)と引き継ぎ、新しい人生のスタートをきった。
美恵さんが経営、ヴァニアさんは厨房を担当。二人とも人生で初めての経験だ。
昨年5月、30年以上続けた柔道生活にピリオドを打つことを決意。「怪我ばかりで思いっきり練習ができなかった。それが悲しくて納得できなかったんです」と当時の心境を語る。
2000年にシドニー五輪、04年にアテネ五輪に国を背負って出場するなど、ブラジル女子柔道を背負って立つヴァニアさんの引退に、パラリンピック代表監督への誘いなどあったが、迷わず全て断った。
「柔道はやるだけやった。今は全くしたいと思わないんです」とさっぱり。柔道着も2着だけ残し、あとはゆずった。すっかりレストランに集中し、その目に後悔の色は見えない。
毎朝5時に起きて6時には店に入り、160席もある大きな店の切り盛りを二人が中心になってやってのける。土曜日は家族連れの客で外に行列が続くほど、種類は豊富で味と質の評価が高い。食材はその日の朝に仕入れ、野菜は地元有機栽培を使うというこだわり。
大会前は常に減量で苦しんできたゆえ、「人一倍食いしん坊。食べるのも作るのも大好きなんです」
「いつか自分で料理したものをお客さんに出せたら」と考えていたといい、親戚から「店をやらないか」と声がかかったときは飛びついた。
「オリンピックのような大きな舞台に立った経験が、今も生きてる。ここでは毎日が勝負。プレッシャーに押しつぶされそうなときは、柔道で学んだ『負けん』って気持ちで乗り切っている。柔道をやってて良かった」と大きな笑顔。
「まさか、こういう人生になるとは夢にも考えていなかったけど、ここで成功したい。みなさんに食べてもらいたいですね」と目を輝かせていた。
【A NOSSA】日曜は休み。午前11時から午後2時半まで営業。住所=Av. Jose Gomes da Rocha Leal, 364 – Centro – Braganca Paulista。電話=11・4034・4936。メール=restauranteanossa@yahoo.com.br。