ニッケイ新聞 2010年3月27日付け
サンパウロ日伯援護協会の「南米日系社会高齢者対策福祉事業セミナー」の参加者一行約40人は3日、非日系老人ホームの視察へ出向いた。サンパウロ市ブタンタン区にあるドイツ村のような雰囲気を醸し出す「ドイツ慈善協会(Sociedade Beneficente Alema)」は、入居料が月額2千レアルから2万レアルという超高級老人ホーム。他民族の福祉への取り組みを学んだ。
以前はオズワルド・クルス病院と同じ系列だったという同ホームは、日本移民が始まる前の1863年に創立され、独政府や企業により発展・維持されてきた長い歴史を持つ。現在は約50人が生活する孤児院を運営するなどして福祉団体として免税措置を取っているという。
3万平米の広々とした敷地内に足を踏み入れると、ドイツ建築の5階建ての建物や平屋、教会、小図書館、湖、カフェテラスがあり緑があふれる。参加者からは「ホテルみたい」と感嘆の声が漏れた。
入居者238人(平均年齢86歳)と職員や介護人、医師などをあわせると、毎日500から600人が敷地内を動いているといい、小さな村のような雰囲気だ。
一行を出迎えたネリオ・タバレス施設長によれば、日系入居者が9割を占める日系老人ホームと違い、非ドイツ系入居者が半数という現在でも、本国企業からの支援は絶えていない。また企業と組んで福祉プロジェクトをいくつも立ち上げている。
「ここは過ごしやすいわよ。簡単な料理もできるし」と部屋を見せてくれた88歳のドイツ人女性入居者は、夫を亡くした後に入居して3年弱。簡単な台所があり、電子レンジ、テレビ、パソコン、食事用テーブルが置いてある。家族用の宿泊施設があるため頻繁に家族の訪問もあり、「不自由ないわよ」と笑う。
入居料は付添人や介護人を数人つける場合は月額2万レアルほどになる。援協傘下の老人施設サントス厚生ホームは3人部屋で800レアル。特別養護老人のためのあけぼのホームの月額2400レアルと比べても高額だ。
その分、医療設備も完備する。歯科、リハビリ、理学療法、作業療法、音声聴覚療法施設のほか、要介護入居者用の建物は24時間体制で看護士・医師がつき、健康管理を行っている。
「人生の最後のひと時を一緒に過ごせるというのは私たちの誇り」と語る健康管理部長のジャナイーナ・ダラダノワさん。入居者の98%は同ホームで死を迎えるため「その人の隣にいる最後の人になるかもしれない」という意識で毎日を過ごしていると説明していた。
ボリビアから参加したオキナワ移住地高齢者福祉対策委員会の津坂涼子委員長は、「個人の家に来たような感覚。福祉の心を学べてよかった」と話していた。