ニッケイ新聞 2010年4月17日付け
国際協力機構(JICA)の海外移住関係費の今年度(平成22年)予算は3億6700万円だが、06年度の5億200万円と比べ、過去5年間で35%強も減少した。1995年には約26億万円もあったが、その後、別の費目に振り替えられた部分もあり、90年代以降、急激に減少している。
これは全世界の日系人向けの費用であり、ブラジルだけならもっと少ない。この勢いで減っていけば、数年でゼロになる。
麻生太郎外務大臣(当時)は07年8月の来伯時に「日系社会は日本の含み資産」と表現し、本年新年号で岡田克也外務大臣は「日系人のみなさんは日本外交の重要な資産です」と挨拶しているが、その裏では外務省が所轄するJICAの日系人予算が大幅に削られていた。これは〃二枚舌〃ではないのか。
先月から営業を開始した援協福祉センターの総工費は1300万レアル(約6億9千万円)であり、JICAの今の予算はその半額程度にすぎない。ちなみに日本は中国に対し返還する義務のない無償資金協力を約1472億円もしている。日本の政府開発援助で建設中だった橋が07年9月にベトナム南部のビンロンで崩落して作業員が死傷する事件もおきたが、土煙に帰したこの件への投資額は約248億円だった。
移民百周年で一般社会から予想もできない盛大な顕彰を受けたことでも明らかなように、日系社会の存在はブラジル全体に対する日本文化の触媒的な役割を果たしている。日系人が目の前にいることで、遠い日本が身近になるような効果だ。
日系人への信用の積み重ねが、間接的に日本企業の参入を容易にし、地デジ日本方式採用などの国家レベルの選択にも影響を及ぼしている。
4月11日付け産経新聞でハイチPKO派遣の中央即応連隊、山本雅治隊長が「ハイチの国連の軍事部門の司令官はブラジル人。日本という国を非常に尊敬してくれており、会う度に『日本はきっちりと任務をやってくれる』と言ってもらえた。ブラジルは日本人移民も多く、そういう方々の歴史的な頑張りで、日本人の素晴らしい誠実さ、勤勉を知っていてくれた」と答えているが、これもその一例だ。
このように日系人の存在は、日伯関係のあらゆる場面で姿をみせる時代になっている。「海外移住関係費」などの費目に閉じ込める発想自体が間違いだ。現在のように日本語教育の費用までがそこに含められて減少する一方では、移民百周年であれだけ日系人が顕彰された事実から、日本国外務省は何も学んでいないかのようだ。
日系社会との関係を強化し、そこを触媒にして日本語や日本文化を普及することで、2国間の関係が素早く成熟してゆく。これは他の国ではあり得ないブラジル独自のあり方だろう。その意味で、岡田外相が言うとおり日系人は「外交資源」だろう。とすれば、すでに移住者支援の段階ではない。日本語や日本文化普及は「移住関係費」ではなく、外交政策の根幹に関わる費用として計上されるべきだろう。
岩塩層下油田の発見や鉄鉱石など産業を支える資源が豊富なこともあり、ブラジルの国際外交における地位が高まっているが、日系社会を抜きにしての国交はあり得ない。日系社会の評判が悪ければ、すなわち日本のそれに直結するし、逆もまたしかり。
新しいビジョンで外交戦略を構築し、その中に日系社会を位置付けて欲しい。(深)