ニッケイ新聞 2010年6月2日付け
ブラジル人が演歌でTVグローボに夢の錦衣帰〃伯〃を飾った――。サンパウロ市東部の貧民地区に育って、リベルダーデ界隈でカラオケを覚え、数々の大会で優勝してきたロベルト・カサノバさん(42)。今年3月のNHKのど自慢チャンピオン大会で優勝したことから縁が繋がり、5月29日夕方のグローボ局の土曜の看板番組「カウデロン・ド・フッキ」で1時間にわたって紹介され、新曲「心から」が劇的な演出と共に披露され、反響を呼んでいる。
日本人の妻美香さん(31、静岡)、愛娘の凜那ちゃん(りな、3)と共に静岡市葵区在住のロベルトさんは、デカセギ同様に3月まで近くの工場で夜勤をしていた。
日本に行く前はABRAC(ブラジル歌謡協会)全伯大会やパウリストン(サンパウロ州選抜カラオケ選手権)のPOPカテゴリーで2連覇を果たすなどの活躍をしていた。「日本語は全然分からないけど、日本の歌がとにかく好きで一所懸命覚えた」成果だった。
4年前、ボサノバを勉強に来ていた美香さんと出会い、日本で結婚して凜那ちゃんが生まれた。日本では日系人の結婚式に呼ばれて歌ったり、各地のカラオケ大会にも参加していたが、NHKのど自慢チャンピオン大会に出場することになり、グローボ局の人気番組ファンタスチコで出場前と、優勝した後の2週にわたって紹介された。
「あれから僕の人生は変わった」とロベルトさん。ファンタスチコを見た有名司会者ルシアノ・フッキが、自分の番組「カウデロン・ド・フッキ」内の有望新人歌手紹介企画の中で扱うことを決め、滞在費や旅費をテレビ局持ちで、5月4日さっそく呼びよせた。
音楽プロデューサーに一週間預けて、美香さんと一緒に歌えるデュエット曲を作らせ、5月14日に番組を収録し、29日夕方5時台の1時間を使って、ヒップホップの新曲「心から」と共に放送した。訪日以前からの友人である望月二郎さん(62、静岡出身)はその番組をみて、「すごく感動した。フッキはとても上手に彼のことを紹介してくれた」と喜ぶ。
この番組に出るためにロベルトさんは工場に辞職願を出し、背水の陣で望んだ。「金融危機で日本が不況になり、ブラジル人がたくさん失業した。中には悪いことをするブラジル人もでて、すごく評判が悪くなっていた。でもNHKに出て以来、日本の新聞や雑誌はとても良い話題として僕のことを扱ってくれ、ブラジル人全体にとっても良かった。今回はせっかくブラジルの方からチャンスをくれたんだから、これに賭けようと思ってやってきた」。
番組後、さっそくリベイロン・プレットやマナウスで歌う話が舞い込み、日本に戻る7月24日まで国内数カ所で公演する予定だ。「できれば日本でやっていきたい」との希望を持っているが、「今回の手応え次第ではこっちに戻ることもありえる」とも。
日本でもNHK以降、演歌「風花」とデュエット曲「未来(あす)への道」という新曲を売り出す準備をしている。
サンパウロ市の兄弟は貧民地区住まいでもあり、ロベルトさんは「NHKのトロフィーを置く場所がない。ぜひ史料館においてもらい、みんなに見てほしい」という。
「僕の人生は亀が富士山を登っているのと一緒。無理しない、ゆっくり、なすがまま」というロベルトさん。錦衣帰〃伯〃のその後は、本人にも分からないようだ。