ニッケイ新聞 2010年6月2日付け
7面で詳報したロベルト・カサノバさんから話を聞きながら、日本に関係した話題が当地テレビ局で大きく扱われるのは嬉しい反面、現代ゆえの複雑さも痛感した。ロベルトさんは非日系だが演歌が上手いのが最大のウリであり、それゆえNHKのど自慢大会でも高く評価され、日本のマスコミから注目を浴びた▼しかし、日本語は片言しかできない。いくら歌が上手くてもプロ歌手として日本で活動するなら、日本語で歌の合間に観客を笑わせたりする話術は欠かせない▼今回NHKで優勝した事実を、ブラジル側が注目してフッキの番組出演となった。だが、同番組の本来の主旨は、国内の無名だが実力のある新人歌手を発掘して機会を与え、プロ歌手になる後押しをするものだ▼つまり、国内で成功するための企画だから、いくら上手に日本語で歌ってもブラジル人一般は喜ばない。でも、彼が歌いたいのは日本語の歌であり、それが上手いから評価された。ポ語の歌なら、彼の持ち味は発揮されない▼フッキの番組が導火線となって国内で人気が出る可能性はもちろんあるが、ポ語の歌に限られる以上、今回の人気は一過性で終わる可能性が高いし、この延長線上では、本来の彼の特長である歌謡曲は永遠に評価されない▼残された成功の可能性は、NHKのど自慢チャンピオン大会優勝者の先輩である平田ジョーらコロニア歌手のように日系社会相手に日本の歌を聞かせていくか、日本での成功に焦点を絞るしかない▼ここが思案のしどころだ。彼の持ち味は日本でこそ活かされるように感じる。腹を決めて、日本で地に足を付けた活動を再開してほしい。(深)