ニッケイ新聞 2010年6月11日付け
【既報関連】9日の国連安全保障理事会での対イラン制裁決議採択後、反対票を投じたブラジルとトルコが改めて制裁は誤りと批判したが、国際社会からは制裁効果の程を疑問視する声も出ていると10日付伯字紙などが報じた。イランは、今回の制裁採択により5月17日調印の合意書も無効となったとの考えを示している。
今回の対イラン制裁決議は06年以降4度目だが、反対票が投じられたのは初めてで、国際社会が一致してイラン孤立化を図るというメッセージには至らなかった。
マリア・ルイザ・ヴィオッチブラジル国連大使は採択直前に、5月17日の合意書成立を踏まえてブラジルは反対票を投じると明言。制裁は効果的な方法とは考え難く、イラン国民をますます苦しめる事になるとも訴えた。
同様の意見表明はトルコのアパカン国連大使からもなされたが、信頼醸成のための対話継続を説く伯土両国の声は、列強諸国の制裁必要論の前にかき消された事になる。
制裁内容は、同国への貨物船検査、イランの銀行への規制、革命防衛隊に対する制限、制裁監視と履行のための国連専門家パネル設置、イランの40団体と同国原子力庁のジャバド・ラヒキ所長の資産凍結など。
石油製品禁輸など、イラン経済に大きな打撃を与えるエネルギー部門が対象から外された事で、当初は制裁に消極的だった中国やロシアも賛成に転じた制裁採択だが、米国外交筋からは、ブラジルからのエタノール輸出は自粛する方が賢明との意見も出ているという。
一方、イランの低濃縮ウランを国外搬出し、再濃縮後同国内に戻すという合意書をまとめ、伯土イ3国調印にもこぎつけたルーラ大統領は9日、制裁決議採択はイランを毛嫌いする列強諸国が自分達の考えをごり押ししたもので、誤った判断だと批判。アモリン外相も、今回の制裁決議採択に際しては十分な審議がなされておらず、安保理の動きは不透明だと批判している。
ブラジル同様に反対票を投じたトルコでも10日、制裁決議採択は誤りとの公式見解を発表と同日サイトが報じている。
制裁決議案提出直後から、決議案が採択されれば合意書破棄と表明していたイランでは、アハマディネジャド大統領の報道官が「合意は自動的に消し去られる」と発言。態度は更に硬化するとの見方が一般的だ。
制裁決議採択には、伯土両国がまとめた仲裁案なら同国の濃縮ウラン半減が可能だったが、制裁によるウラン削減効果は限定的との批判や、過去に制裁が受けた国々は様々な方法で切り抜けており、十分な効果は期待薄との声も出ている。
制裁決議採択反対のブラジルに対しては、対話の道を残そうとしたとの好意的見方と共に、イラン包囲網を弱体化させたとの批判や制裁義務遂行を疑問視する声も出たが、ブラジルは安保理の決定には従う意向を表明している。