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宝塚市放火事件=日本社会で育つ子供たち=複雑化する子弟教育問題

ニッケイ新聞 2010年7月13日付け

 【神戸新聞11日付】中学3年の長女(15)と同級生の少女(14)が逮捕された宝塚市の放火事件。長女も、死傷した家族3人もブラジル人で、死亡した母親(31)は、長女との関係がうまくいっていないことを同胞の友人に打ち明けていた。
 母親は日本語が不自由な上、パン工場で毎日、長時間働いていたといい、知人らは「ブラジルの習慣のまま生きる親と、日本社会で育つ子どもは違う文化を抱える。親子間のすれ違いが積み重なり、長女を追いつめたのでは」と話している。
 重体の父親(39)は14年前に来日。母親とともに11年前に来日した長女にとっては義父にあたる。母親は長女の実の母とみられる。次女(9)=重傷=は、父親と母親の同居後に生まれた。
 知人のブラジル人女性によると、両親はともに大阪市西淀川区内のパン工場で派遣社員として勤務。母親は連日12時間もパン製造に携わり、父親はブラジル人労働者と日本人上司との仲介役などを担当していた。
 母親は、友人に次女を「かわいい」と話す一方、長女に関しては「たたいて怒ってばっかり」とこぼしていた。女性は「仕事に精いっぱいで、子どもに構う余裕がなかったようだ」と話す。
 母親は日本語が不自由で、自宅からポルトガル語で言い争う声がよく聞かれた。こうした家庭環境の中、長女は、近くの主婦(56)に「高校に行きたい。お母さんに『私は16歳で子どもを産み、勉強できなかったから勉強してほしい』と言われた」と話したという。夜勤で忙しい長女の母親に代わって、1週間ほど夕飯を作ることもあったという主婦は「(長女は)母親に気を遣っているようだった」と振り返る。
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 【神戸新聞11日付】就労目的の親とともに来日した外国籍の子どもの教育問題は、滞日が長引く中で複雑化している。
 学校現場では、日本語ができない子どもへの対応をまず迫られるため、兵庫県教委は「子ども多文化共生サポーター」を派遣し、日本語の指導などにあたる。一方で、放火事件で逮捕された長女のように、幼いころ来日して日本語を話せる子どもは、支援から漏れがちという。
 在日ブラジル人の自助団体「関西ブラジル人コミュニティ」(神戸市中央区)理事長の松原マリナさんは「日本語ができるから、と済まされる。生活面で不自由なくても学習のための日本語は難しい」と指摘する。進学をあきらめ、荒れる生徒たちを見てきた。「ポルトガル語の読み書きもできず、ブラジルでも暮らしにくい」と松原さん。外国籍の子の居場所づくりや、支援に関する情報発信を課題に挙げる。
 また、多文化教育に詳しい野崎志帆・甲南女子大学准教授は「事件の背景の分析が必要。親子関係だけでなく、同化圧力が強い日本の学校や社会の構造的な問題を見ないといけない」と提言する。(宮沢之祐)