ニッケイ新聞 2010年7月24日付け
今年は例年になく桜がよく咲いている。コチア街道からピラルドスールに至る聖南西地方が特によく、市内ではイビラプエラ公園の桜が見ものだろう。8月に入るとカルモ公園やカンポス・ド・ジョルドンの雪割桜、陽光桜が見られる。いずれも先人が苦労を重ね、サンパウロ州の気候に順応してきたものだ。日本人の郷愁の心を癒し、ブラジルの地に根付いてきた桜。現在、日本から届いた新たな品種が花を咲かせ始めている。
きっかけは2006年、サンパウロ市内のある好事家の所に日本で交配された桜の穂木が送られてきたこと。
送り主は横浜在住の白井勲さん。桜の研究、育種に半世紀をかけてきた白井さんは、85年に農林省に品種登録され、戦後新品種の最高傑作とも言われる「横浜緋桜」などを生み出している桜の育種家だ。90歳を超えてなお、世界中の多くの人々に桜の美しさを知ってもらえるよう、様々な気候条件の下で多様な色の花が咲く桜の研究を続ける。
そんな白井さんが各国の桜事情を紹介する桜シンポジウム(日本花の会主催)で92年と95年にブラジル代表者の講演を聞いた。その後、研究、交配を行い、暖地なブラジルに適す可能性の高いと思われる40種ほどの交配種を考案し、その内20種の穂木を送った。
穂木を受け取った好事家は白井さんの研究のことは知らず、その大きく見事な花の姿に驚くと共に、「コロニアのことは忘れられていなかった」という感慨の気持が湧き、40もの交配種を作り研究してくれたこと、その情深さ、友情に感動したという。
届いた20種の内、4種が良く育ち、昨年に続き、今年も花を咲かせた。
写真の桜がその中でも特に育ちが良い一種。標高800メートル以上に咲く寒緋桜(かんひざくら)の一種で、沖縄桜(琉球寒緋桜)と同じ遺伝子を持つ台湾緋桜と山桜のヒマラヤ桜の交配種で、サンパウロ州の気候に適すると期待されるという。
薄いピンク、大輪の艶やか花を咲かせる今回の新種。特徴的な大きな花びらは5センチにもなり、沖縄桜の花(3センチほど)と比べてもずいぶんと大きい。また沖縄桜と違い、1枚1枚が離弁するので、日本人が桜の情景として浮かべる桜吹雪が期待できる。雪割桜も離弁するが、花はより大きく、白い。
同新種は来年にも数百本の穂木を分ける事が出来ると見込まれており、接木してから2年ほどで花が咲き始めるという。
日伯間の交流、友情が生んだまだ名も無い花。ブラジルの各地で大輪の桜の花びらが舞う風景が見られるのも遠くなさそうだ。