ニッケイ新聞 2010年7月28日付け
経常収支の赤字傾向が続くブラジルで、今年上半期の赤字累計は237億6千万ドルに至り、243億200万ドルであった2009年度の赤字総額に迫っていると27日付伯字紙が報じた。上半期の赤字額は6月の赤字額51億8千万ドル共々、1947年の統計開始以来、最悪の結果となっている。
6月、上半期の双方で経常収支が赤字となった原因の一つは、多国籍企業が挙げた利益の国外送金増加。欧州金融危機の影響を受けて困難を覚える本社を助けようとするブラジル子会社は、自動車産業、化学工業、エネルギー関連企業に多い。
また、国内の消費加熱を反映した外国商品輸入や国外での電子商取引の増加、国外進出企業の国外サービス利用、外国旅行急増などによる外貨支出増なども赤字に拍車をかける。
例えば、国外への利益送金などでの出超額は上半期に149億6700万ドル。ブラジル企業や政府が抱える国外債務2251億7200万ドルという数字も大きい。
さらに、ブラジルからの旅行者が国外で使ったドルは、ブラジルへの旅行者使用額を41億900万ドル上回った。6月の外国旅行での出超9億870万ドルも新記録だ。
ブラジルの景気回復の主因は国内消費だが、所得向上などに裏打ちされた消費過熱が貿易収支黒字40%減や外国旅行の出超100%増などを招き、経常収支赤字の拡大にも繋がっている事に対し、政府が具体的な対策をとっていない事を懸念する専門家もいる。
欧州経済回復には時間がかかりそうな状況下でもあり、為替急変の要因は少ないが、政策金利が他国より高いブラジルに投資し利息による収益を本国送金する例もあるなど、経常収支の赤字縮小への要因は少なそうだ。
ただ、金利の差が大きい中でも伸び悩んでいるのが国外からの直接投資で、2007年上半期以降減少傾向が続き、今年上半期の直接投資額は120億5800万ドル。この額は中銀が今年度目標額とした380億ドルの3分の1にも達しておらず、6月の直接投資7億800万ドルは国際的な金融危機下にあった2009年6月の半分。上半期累計でも、09年同期の126億ドルを割り込んだというのも関係者を憂慮させている。景気が好調だった2008年上半期の直接投資は167億ドルだった。
中銀は、直接投資で補えない経常収支赤字分は短期投資で補えるというが、短期投資の怖さはその不安定さ。短期投資と金利の低い国外からの融資に頼るブラジルにとり、2014年のサッカーW杯や16年のリオ五輪、岩塩層下石油開発などが救いの女神となるか、輸入増加や国外での雇用や収益増加が更なる赤字拡大を招くか。今後の経済の舵取りはこれまで以上に難しくなりそうだ。