ニッケイ新聞 2010年8月27日付け
メキシコ北東部のサンフェルナンドで24日、麻薬カルテル、セタスのメンバーに殺害されたと見られる不法移民72人の死体が発見されたが、25日になって被害者の中に少なくとも4人のブラジル人が含まれていたとの通報があり、ブラジル外務省は26日にメキシコ駐在副大使を現地に派遣と25、26日付ブラジルメディアが報じた。
事件が起きたのは米国との国境から160キロのサンフェルナンドの農場で、大量殺戮を逃れたエクアドル人青年(19)から助けを求められて現場に急行した海軍兵士らが、銃撃戦終了後、男性58人、女性14人の死体を発見した。
銃撃戦では兵士1人と麻薬カルテルのメンバー3人が死亡。カルテル所属の青年1人が逮捕された他、国防省の偽造ナンバープレート付きトラック1台と大量の武器、弾薬が押収された。
エクアドル人青年によると、殺されたのはブラジルやエクアドル、エルサルバドル、ホンジュラスからの不法移民で、メキシコ経由で米国に向かう途中、コヨーテと呼ばれる不法入国斡旋者に誘拐されたという。
青年の証言によると、セタスのメンバーは2週間毎に1千ドルを支払うから殺し屋として働かないかと声をかけたが、不法移民達が申し出を拒んだため銃殺に及んだという。生き残った青年はのどに被弾後、死んだふりをして殺害を免れた。
今回の事件を起こしたとされるセタスは、米国との国境沿いで活動する麻薬カルテルの一つ、ゴルフの戦闘部隊として知られていたグループ。米国CIAの訓練も受けたエリート兵士やグアテマラ兵などからなるセタスは、90年代にゴルフから分離した後、他カルテルとの勢力争いや、軍や警察との衝突を頻繁に繰り返している。
同国内の麻薬カルテルは7つあり、2006年に就任したフェリッピ・カルデロン大統領はカルテル撲滅を目標に特殊部隊なども配備した。
これに反発した諸カルテルは攻勢を強め、麻薬組織に殺された人の数は06年以降2万8千人に上っている。また、今回の様な誘拐事件も多く、07年の誘拐被害者は6500人以上という。
今回のような大量殺戮は今年既に3度目で、6月(一説では5月)には55人、7月には51人の遺体が見つかった。
米国の支援も受けたコロンビアでは麻薬組織撲滅作戦が功を奏し、犯罪者減少の傾向にあるが、メキシコでは、麻薬の受け渡し専門だった犯罪者達が麻薬取引の全てに絡むようになっている。
ブラジルから米国への不法移民は、ビザ不要のグアテマラ入国後、偽造文書を使ってメキシコに入国し、陸伝いに米国に入る例が多いが、メキシコには、身代金目当てに不法移民を誘拐し、身代金受領後に米国内で解放するコヨーテも多いという。