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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年10月16日付け

 ドキュメンタリー手法のハリウッド映画「生きてこそ」を覚えているだろうか。1972年の10月、ウルグアイ空軍機がアンデス山中に墜落し、乗客ら45人のうち32名が生き残り、厳寒の中で犠牲となった人たちの人肉を食べ生き延びるという哀しい惨劇を描いたものであり、今もあの悲惨な映像が胸の奥深くに息づく。そして最後の生存者16名はチリ人農夫の活躍によって助けられたのだが、この人肉を食べるという窮極の選択は、あるいは、人間の永遠なる課題ではあるまいか▼あの大惨事から38年。チリの鉱山で落盤があり地底700メートルの坑道に33名の鉱夫らが生き埋めになる悲惨な事故が起こり、世界の目はチリの落盤現場に釘付けになった。なにしろ坑道は深い。とても助かるまいの観測も濃かったが、アンデス墜落の生存者カネッサ医師らは「希望を捨てるな」と忠告した。そこで―救助に向けた穴を掘り1人づつ吊り上げるの方式を取り―これが大成功したのである。奇跡の生還第1号はアバレスさん(31)で陸上に上がってから妻子と抱き合い「元気だよ」と語ったそうだ▼作業は順調に進み最高齢の66歳も助かったし、事故発生から8回も現場を訪れたピニェラ大統領も大喜び。鉱夫らの家族も喜びを爆発させたし、日本やブラジルでも歓声が響き渡った。アンデスの悲劇は今も語り継がれるが、鉱山の悲しみが、破裂するような喜悦になったのは悦ばしい。遠い日本からは、宇宙飛行士らが食べる「宇宙食」を急送し話題になったりも。33人の皆さん―よかったね。本当におめでとう。(遯)