ニッケイ新聞 2010年10月27日付け
当国では病名は医者ではなく患者本人が決めるものらしい。私事で申し訳ないが肺を患っている関係で、医者通いの日々が続いている。知り合いの親切な薦めにより、セカンド・オピニオン(2番目の医者の意見)を聞くことになり、医者ごとに診断が違うのに戸惑い、成り行きで3番目、4番目、5番目まできてしまった。3つの病院のベテランから中堅まで、彼等の意見は「結核ではない」「結核の疑いがある」の二つに集約される▼こうなるとどの医者を選ぶかという最終選択は、患者がしなければならない。つまり、自分が結核であるかどうかを、患者本人が決めるという不思議な状況にある。「結核ではない」意見の医者が3人いると聞き、結核を疑う某女医は「3対2なら仕方ないわね」とため息をついた。患者としては多数決の問題で考えてほしくないと思う▼本来、ある程度大きな病院なら、患者の症状に関係した医者数人がチームを組み、若手が判断に苦しむ時はベテランが助言を出し、複眼的に病状を診断していくのが本当だろう。でも、そうなっていないのが悲しい現状だ▼人文研の宮尾進元所長とも先日この件に関して意気投合した。やはり「医者によって言うことが全然違うから困る」と嘆いていた。当地の医者の多くは病院に勤めていても事実上、個人経営者の寄り集まりのような独立性があり、自分の患者に関する他の医者からの言葉を快く聞きたくない何かがあるようだ。多くの読者が病院で同じような感想を抱いているのではないか▼医者も人間だから不満もあるだろうが、「患者のため」を最優先する発想こそが医学の原点ではないか。(深)