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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年11月25日付け

 コロニアの歴史に残る舌禍といえば、マカコ事件だろう。1951年、高まりかけていたアマゾン移住再開の機運を受け、中央公論社がコロニア識者を集め開いた座談会で「二萬、三萬、十萬と入ったところで、三代目には退化して猿(マカコ)になってしまう」との発言が問題となった▼移住事業の主体が定かでない故の慎重論だったのだが、出席者が認識派の中心人物だったことから、戦勝新聞関係者がこれに乗じ「ブラジルを侮辱するもの」と訴え出た。発言の主は、アンドウ・ゼンパチ(1910~83)。この事件を機に移民の精神構造を論じた。本名安藤潔。金に縁がないとし、「金」の字を分解、全八とし、後にカタカナ表記となった▼恩師の「移民に役に立つ人間になれ」との言葉を胸に東京外国学校でポ語を学び、大毎移民団の助監督として来伯。日伯新聞の編集長を務めた。一時は瑞穂村で教師をしたが、一切の生産業に就かず、文筆によってコロニアを啓蒙、意識向上を目指した。「ブラジル史」(岩波書店)、ポ語文法書など著書も多い▼ブラジル日本移民史料館は、生誕110年を記念し「アンドウ・ゼンパチ展」を明日26日から開く。初公開の写真や肉筆の原稿などを展示。農業が主だったコロニア社会でペンに生きた〃インテリ移民〃の生き様に触れる機会となる▼アンドウが主体となった勉強サークル「土曜会」の後身、サンパウロ人文科学研究所の古杉征己理事(元本紙記者)が評伝を執筆した。家族を捨て、初恋の人の元に走った激情家の一面も詳らかに。近日中に本紙で連載する予定なのでお楽しみに。(剛)