ニッケイ新聞 2010年12月17日付け
サンパウロ市の女性保護警察(DDM)によれば、今年1~6月、5090人の女性から夫から脅迫を受けたという通報が入った。その数は1日あたり28件で、昨年平均の27件/日と比べて微増だが、実際に暴行に至ったケースは1日あたり23件から19件へと大幅に減少した。家庭内暴力への認知、法的な支援が広まるに従い、被害を未然に食い止めようと自ら立ち上がる女性が増えてきたようだ。15日付エスタード紙が報じた。
同市の社会福祉専門家ファチマ・マルケスさんは、「支援を求めようとしない女性には、離婚して経済的な支えを失うことを心配する人が多い。子供がいる時はなおさら」と被害者の心境を説明。女性の社会進出が進むことで、経済的に自立した女性が家庭内暴力の実態を公にするようになってきたという。
マリア・ガブリエラ・マンソウル検事は、元恋人が犯人と推測されているナカシマメルシアさんやエリーザ・サムジオさんの殺人事件も女性が警察へ出向くようになったきっかけだと指摘する。こういった凶悪事件が女性たちに事件を未然に防ごうという意識を呼び起こしたという。
だが、中には、まだ法的な処置を求める具体的な行動に踏み切れない女性もたくさんいる。「旦那さんは良い人だから」といった周りの人の意見に左右される、または母親や祖母に「夫に従い、我慢しなさい」と助言されることなども、警察署へと向かう足を踏み留める理由になる。昔は、女性の間で家庭内の問題に〃我慢〃をする風潮もあったことから、家庭内の暴力や脅迫に対して自ら行動を起こす女性たちは新たな世代との見方もあるようだ。
全国家庭サンプル調査によれば、昨年中、何らかの暴力を受けた10歳以上の女性は250万人。夫、又は元夫が加害者というケースが25・9%だが、140万人の女性が夫の仕返しが怖いとなどの理由で警察に届け出なかった。
サンパウロ市バーラ・フンダに家庭内暴力を専門に扱う唯一の法廷が設置されてから2年を経た今月、検察局と地裁は、サンパウロ市内に同種の法廷を6カ所増やすことに同意。来年2月までの開設を目指して準備が進められている。
マリア検事は「元恋人から脅迫を受けていたという女性の被害届けで逮捕状が出たこともある。支援の手は確実に広がってきた」と女性たちを勇気付けている。