ニッケイ新聞 2009年12月10日付け
壮大な八つ当たり――シーズン当初の最下位から始まり、欧州帰りの〃皇帝〃アドリアノを中軸に据えたフラメンゴは中盤から急激に追い上げ、17年ぶりの優勝を見事に決めた。そのニュースをみながら、サッカーという〃社会的ガス抜き装置〃の、大衆からの八つ当たり対象は常に警官隊だと痛感した▼マラカナンの優勝決定戦で偽チケットをつかまされて入場拒否された多数の若者たちが警官隊と衝突した姿しかり、パラナ州の伝統のコリチーバがホームで二部降格を決め、熱狂的なファンがグランドに進入して警官隊と激突した姿しかり。ニュース映像を見るかぎりほぼ暴動だ▼いずれも警官は騒ぎを静める役回りで、原因そのものではない。偽チケットを売ったのはダフ屋だし、二部降格になったのは愛するチームが負けたからに他ならない。だが、いずれもわき上がる憤怒の激情をぶつける対象は、目の前に立ちはだかる警察官となる▼翌月曜朝の7チャンネルのニュースでは、コリチーバのファンが観客席の椅子を剥がして一斉に放り投げ、まるで春先に桜の花びらが散った地面のようになっているグランドを見せた後、記者が「5年後にW杯が開催されるのに、こんなことではどの国の代表チームも怖がってこないだろう」とまで断言。マスコミは返す刀でアドリアノという〃英雄〃を作り上げ、大衆はカリスマが誕生したことを喜び、憤怒をカタルシスに変えていく▼醜聞が続く首都の政治家らは「自分たちに直接関係あることでなくてよかった」と胸をなで下ろし、「ガス抜き装置はちゃんと機能している」とほくそ笑んでいるに違いない。 (深)