ニッケイ新聞 2009年11月24日付け
「大統領はベロ・モンテのダム建設にはサインしないと言ったのに」―サンパウロ市で22日、パラー州シングー川流域の先住民酋長らが、思いがけない告発を始めたと23日付エスタード紙が報じた。
問題発言は、シャッカラ・ド・ジョッキーでのナトゥーラ・ノースと呼ばれるフェスティバルのコンサートで。最後を締めくくった英国人歌手スティングが、20年来の知己のラオニ酋長を舞台に招いた時の事だ。
ラオニ酋長は、07年にルーラ大統領の手から文化勲章を受け取った時、冒頭の約束も受け取ったという。
ベロ・モンテのダムというのは、パラー州に建設予定の水力発電所ダムの事。環境ライセンスさえ出ていれば、12月にも建設のための入札が行われるはずだった。
総工費200億レアルの同発電所は、完成すれば世界3番目の規模になる。シングー川流域の環境破壊を懸念する環境保護者や地域先住民の反対も20年以上続くものというが、現政権では経済活性化計画(PAC)に組み込み、2014年に稼動開始を謳っている。
一方、酋長の発言で注目されるのは、大統領自らが「サインしない」と言いながら、その実、その推進者である事。酋長は「大統領が真実を話したのか案じている」というが、先住民リーダーの1人で通訳を務めた甥のメガロン氏も、現政権は建設計画も提示せず、先住民の声を聞こうともしなかったと発言した。
シングー川流域の先住民が、パラー州アウタミラで行われた同水力発電所に関する討論会で山刀を振るい、エレトロブラス技師襲撃という事件もあった事は、08年5月24日付本紙既報だが、開発優先で、環境や地域住民無視の計画推進との危惧感は払拭できない。
環境歌手としても知られるスティング氏も、別な方法での電力開発は出来ないかと問うているが、同日付フォーリャ紙によれば、アフロレッガエなど国内外の歌手が歌い、1万4千人が集まったコンサートで、発言の信憑性を問われたルーラ大統領。先住民保護区拡大などの一方、成長優先路線のジルマ官房長官擁護の姿勢と一脈通ずる発電所建設推進の矛盾がまた一つ表出した。