ニッケイ新聞 2009年11月20日付け
最高裁がバチスチ容疑者の身柄引渡し最終判決を下し、判決執行はルーラ大統領の一存としたことで18日、同大統領は人道的見地から同容疑者のブラジル寄留に法的策を検討する意向と19日付けフォーリャ紙が報じた。最高裁は単なる殺人罪と考慮したが、大統領は左翼運動に政治弾圧のリスクは付き物と見ている。総弁護庁は、総力を結集して法的判断と外交的解決の2面で検討、これまで最高裁と反対の見解を採ったジェンロ法相の立場にも配慮する。
ルーラ大統領の意向は、人道的配慮によりバチスチ容疑者をブラジルに引き止めることだと政府の1閣僚は明言した。また政府内でも、同容疑者の身柄引渡しに同意する者はいないという。
これからの焦点は、イタリア政府との摩擦緩和とジェンロ法相の顔をいかに立てるかにありそうだ。ルーラ大統領は、熱を冷ますために時間を稼ぐよう指示した。
犯罪人引渡しの伯伊協定は1989年、締結された。さらに1993年に一部が改正された。同協定3条に納得できる理由があれば、大統領が身柄引渡しを拒否できる条項が明記された。
理由とは人種差別や宗教弾圧、性的差別、国籍的理由、言語、政治慣習、社会的条件、個人的条件などで不利な立場にあり、身柄引渡しにより不当な扱いを受ける恐れが考慮されるとき。
ルーラ大統領が3条を適用すれば、ジェンロ法相の言い分が立証され、同容疑者を政治亡命者として容認できる。メンデス長官見解の大統領が最高裁判決に従い同容疑者の身柄を引渡すべきだとするのは、違憲とする意見が多数を占めた。
国家元首である大統領は、最高裁と権限を競う立場にない。最高裁の権限は最高裁判事の判決で終わる。最高裁長官が大統領に命令するのは見当違いだと、反対意見を示した判事らがいう。
最高裁の権限を巡って見解が、交錯した。最高裁は5対4で身柄引渡し判決を下したが、大統領がそれに従う義務は4対5で否決された。
もしも、ルーラ大統領が同容疑者の身柄を引渡したら、これまでルーラ政権を支援してきた左翼運動家が裏切られたとして、ルーラから離れてゆくことを大統領自身がよく認識している。
また引渡しを拒否すれば、イタリア政府がブラジル政府をテロ支援国家として世界へ吹聴する。ルーラ大統領は今週、ベルルスコーニ伊首相と摩擦回避で合意した。それまでルーラ大統領は、同容疑者をブラジルの刑務所に長期拘束する考えであったようだ。