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日伯論談=テーマ「日伯経済交流」=第27回=三好康敦=Primotech21社長=地上デジタル放送と日伯経済交流=「採用から今日まで、今後の展望」

2009年11月20日付け

 日本とブラジルは補完関係があると言われ、これは互いに補いながら協力しあう環境があるという事ですが、一方では異なる点が多く交流には沢山の課題があると言う事でもあります。それでは地上デジタル放送(地デジ)に日本方式を採用したテレビの領域では如何なものか?を採用から今日までと今後の展開について再考しました。
 先ずテレビとはブラジルの一般家庭内に於いて一番重要な娯楽と情報のソースです。ノベーラと称する夜のドラマは日中の話題、友人同士で集まってサッカーを観戦、テレビニュースが唯一の情報ソースであるのが少なくない等と一般市民の生活に深く浸透しています。そしてこのテレビサービスを更に充実する為に安定した大量な情報の伝送能力が求められ、デジタル化は正にこれを実現する技術手段であります。
 この生活に深く浸透しているテレビ放送の近代化に日本のデジタル放送方式が採択された訳ですが、これは日本の技術が米国や欧州のそれに対して受信性能や様々な将来のサービスの展開に向けて柔軟性を持っている優れた技術であることが、ブラジル国内の専門家の長年の研究成果で立証されたからです。
 しかしブラジルは欧米文化に染まっている国で、確かに親日派ですが、一番重要なメディアのテレビ放送に2006年6月29日付けで日本方式が採用されたのは大きな歴史的な出来事でした。
 そして方式採用直後、2007年12月2日に放送開始日を定めてこれに向けて技術規格の策定作業が開始されました。実作業はブラジル勢が推進して日本勢は日本から遠隔でのサポートを中心に実施。これはブラジルの地デジ放送規格が日本方式の発展版で新規策定部分が多々あり、単純に日本のそれを導入するだけでは無く、大半はブラジル勢が推進した中で一部日本勢の協力が薄いとのクレームすらも生じ、一時期には日本勢の誠意を疑う声すらも挙がりました。
 しかし2007年を通じて双方の関係者の努力と協力で基本的な規格作成はまとまり、これに平行して放送事業者の投資、送信機メーカーの機材設置、そして受信機メーカー各社の受信機の開発が進み、放送は無事予定日に開始しました。
 今となってはブラジル側から日本勢に色々と学んだとのコメントもあり、これこそ相互の補完関係が理解され、協力体制に導かれて築き上げられたことの証明でしょう。
 そしてブラジルで放送開始以来、ブラジルの地域に於いての政治・経済力と日本の技術力の絶妙な組合せで地デジ規格はペルー、アルゼンチン、チリ、ベネズエラにて採用されており、今後も南米大陸制覇への展開に期待をしたい所です。
 日本は欧米が創り上げた技術を磨き、世界の最先端をゆく優れた技術を創り上げてきました。携帯電話の通信方式や地デジ放送方式が具体例ですが、これらは日本国内のみで展開、海外展開の前例は無く、ブラジルでの放送方式採択は前代未聞でした。
 優れた技術がブラジルの研究で評価され、技術を切口に決まった事柄ですが、南米諸国への展開は前述日伯での其々の役割分担とコンビネーションが上手く働いたからと認識しております。
 民間企業の領域を見てみますと、方式採用以来受注も、主要放送局の設備類は日本メーカーが今後地方展開で数の出る中継局設備類には高価だと言われ、ここにはブラジルメーカーの対応が期待されています。
 何れも日本とブラジルのメーカーが各々で特に交流せずに活動している状況です。この中継局市場向けはデジタル放送を機に進出してきている欧米の設備メーカーが活躍する可能性を秘めており脅威です。
 受信機の市場では日本メーカー品も市販されていますが高いシェアを獲得したのは非日系メーカー。韓国勢を台頭に欧州・地場メーカーがチューナー内臓テレビやセット・トップ・ボックスを展開し、日本方式特有の携帯受信サービス(ワンセグ放送)でも韓国メーカーが携帯端末でリードする結果となっています。
 即ち今の所は大型送信機関連での日本メーカーの活躍を除くと、日本・ブラジル双方の企業に取って地デジは大きな果実に結びついていないのが実状です。放送規格は日本方式が基礎になっている中では機材供給で日本メーカーの挽回のみならず、日本とブラジル企業の交流を通じた協業やアライアンスを含めた活躍も期待したい所です。
 放送規格の南米展開と同様な協力体制、即ち日本側が技術を、ブラジル側が渉外・営業・マーケティングを担当して協業するのもお互いの強みを生かし、且つ脅威である韓国・欧米勢への対抗手段として考えられるのでは?と思います。
 来年2010年にはテレビのデジタルチューナー搭載義務化、南ア・サッカーワールドカップのテレビ特需、南米の地デジ方式採用諸国で「HD(高解像度)で視聴しよう!」の動き、データ放送サービスの立上げ等の地デジ市場では需要奮起に向けてのトピックスが多数あり、地デジ領域で様々なビジネスの展開が期待されます。
 この機会に日本とブラジルの企業が相互の補完関係を綿密に分析し、状況が許せば上手く協力し合って地デジ市場の果実を獲得して欲しいところです。

Primotech21代表取締役社長 三好康敦(みよし・やすとし)

 1973年に両親と来伯。2003年にPrimotech21を起業、アルプス電気の現地法人事業を継承。2005~2006年に日本のデジタルテレビ方式の採用を働きかけた。Primotech21の代表取締役社長、ブラジル日本商工会議所の電気電子部会の副部会長。40歳。